読書感想文「月の砂漠をさばさばと(北村薫)」

この小説は、小学3年生のさきちゃんとそのお母さんの日常生活を描いたお話である。何ひとつ衝撃的な事件が起きたりはしないし、作者が泣かせよう泣かせようと一生懸命になっている気配も感じない。なのであるが、私は何度となくこの本を開く。心がほんわかするからである。

 

二人暮らしのさきちゃんとお母さんの心のつながりを感じることができると、こちらが安心するのである。物語は、十数個のエピソードがあり、全てが長編小説のようにつながっているのではないのだが、読み進んでいくうちに、最初のエピソードがどんな心理状況だったのか理解できるようになった。

 

 

 

エピソードのうちで印象深いのは、「さそりの井戸」である。さきちゃんのお母さんは作家なので、お話を作るのが得意である。さきちゃんが寝る前に、自分で作ったおはなしなどを布団の中でしてあげる。私など、二人が布団の中で会話をしていること自体に心を打たれてしまう。じわじわと感動する。二人は幸せな時間を過ごしているのだ。

 

お父さんが一緒に暮らしていなくて、ちょっと寂しいなと感じるさきちゃんだが、こんな時間があればきっと大丈夫だ。この瞬間も、大人になってからも、さきちゃんの心は幸せで満ちていられる、そう思うと良かったなと心から思うのである。大人になってからも、親子の何気ないが大切なつながりを心に持ち続けて欲しいと、お母さんも思っている。

 

読者が思うのだから、母が思うのは当たり前のことである。「さばのみそ煮」のエピソードでは、さばのみそ煮を料理しながら、お母さんが鼻歌を歌う。”月のー砂漠をさーばさばと、さーばのみそ煮が、ゆーきました”。聞いていたさきちゃんは、かわいい!と言って気に入る。その夜、二人で寝ながらさきちゃんはこの歌を口の中でつぶやくのだ。

 

実は、お母さんが子供の頃に、自分の父親がの変な鼻歌を歌い、それをお母さんは家事をしながら今でもつい口ずさんでしまうのだが、きっとさきちゃんも将来さばのみそ煮を作りながら口ずさむと思う。さきちゃんはお母さんから受けた愛情を心と体に刻み込んで、幸せに生きていけると思って感極まってしまう。何度読んでも感極まるのである。

 

(40代女性)

 

 

 

 

月の砂漠をさばさばと (新潮文庫)
北村 薫
新潮社
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