「ストロベリーナイト」の読書感想文
すごく汚い。一ページ目から二ページ目くらいまでを読んで真っ先に思った感想はこれだった。刑事モノでは良くある汚さ、グロテスクとはまた違う、汚物の汚さが目立つ内容から始まったこの作品をまさか徹夜で読みふけるとは思わなかった。
はっきりと言ってしまえば、内容はそこまで深くもないし、良くも悪くもエンターテイメント作品として完成されているといえるだろう。発生した事件の裏にいた人物も作品の性質上すぐに分かるし、事件や主人公の姫川怜子のバックグラウンドも、悲劇性はあるもののやや陳腐だ。
なのになぜ、どうしてこうも引き込まれるのだろう?読んでいても、読み終わっても不思議だ。シリーズとしても完結した作品だから続刊も次々と買った。そしてもう一度読み返したときにはたと気付かされたのだ。
作品全体が読みやすい文章、状況を分かりやすく端的に、それでいてときおりユーモアを交えた、例えるならば漫才のツッコミに似た一文が加えられることで、くすっと笑える文章に仕上げられている。
だから読んでいて楽しかったし、分かりきっているような内容であっても、ずっと読んでいたい、もう一度読み返したいと思わせる。さながら王道、あるいは名作ドラマを繰り返し繰り返し見ているようだ。
分厚い文庫本でも長さが気にならず、むしろ長くてちょうどいいと思える文章の塩梅が心地いい。人によっては事件の良しあしや予想外の展開、どんでん返しに期待をする人も多いだろう。私もそこを期待して最初は読んでいた。
しかし、期待をすればするほどに、この文章の良さに自覚できなかったのだ。だから、最初に読んだ時になぜ面白かったと持ったのかが、分らなかったのだ。自分が探偵や謎解きをする人物になったつもりではなく、傍観者にでもなった気で読んでいるのがちょうどいい。
ミステリ小説で、そう思いながら読める作品に出会えたのは、この作品が初めてだった。初めての体験を教えてくれた。
(20代男性)
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