読書感想文「血か、死か、無か? Is It Blood、Death or Null?(森博嗣)」

森博嗣のWシリーズ8作目。人口細胞を入れることで、人間がほぼ永遠に生きられるようになり、人工知能が成熟の域に近づいた、今から約2百年後を描いた世界。研究者のハギリは、自身の研究内容に起因するためか命を狙われるようになり、情報局から護衛がつく。局員のウグイとアネバネともに様々な体験をする。チベットやフランスなど様々な場所へ赴きいくつかの人工知能とも接触する。今作は、チベットで見つかった人工知能、今のところこちら側の味方と思われるものの対抗勢力であり、ハギリたちがシャットダウンしたコンピュータと通信をしていた記録も持つ、イマンというコンピュータに会いにアフリカに向かった。このシリーズには人工知能、トランスファ(肉体を持たず電子空間を自由に移動して、機械や電子頭脳をコントロールできる存在)や、ウォーカロン(細胞から培養して肉体を作り、人工頭脳をインストールした人間ともロボットとも違う存在)など人格を持った人間以外のキャラクタが多く登場する、とても斬新な作品のように思える。よく、ロボットが心を持ったらどうなるかと言われるが、この本を読んでいるとそもそも心とはなんだろうか、と深く考えてしまう。実際、ウォーカロンは意識を持つか、意識とは何か、生きているとはどういうことが、という議論も登場する。電子空間で自由な活動するために人工知能同士で領域争いをする。人間のように悩みを持つウォーカロン、友人を亡くして寂しさを感じる人工知能もシリーズで登場し、小説というより何か哲学書のようなものを読んでいるような気持にもなる。人工細胞を入れて完全な体になった代わりに生殖機能が失われた人間、中身は年寄りばかりの人間に対して、次々に生み出され(製造される)、若者ばかりのウォーカロン。このままでは人間が滅びてしまう、というのがこの時代の最大の問題であるが、人間が滅びることが不幸なことだろうか、という気持ちになる。この作品には何かそう思わせるような、未来に対して楽観的な平和的な空気を感じる。それが自分にはとても魅力的だ。こんな未来なら自分も人工細胞を入れて見てみたいものだと思う。ハギリたちが行く先々で攻撃や妨害行為を受ける理由や、その正体はいまだ明らかにはなっていない、電子空間での勢力争いの詳細もわからない。まだまだ大きな謎に包まれている。このシリーズは、百年シリーズとのリンクが多くみられるし、さらに遡って、S&Mシリーズ真賀田四季の行動の延長線上にある。その全容は自分にはまだ全く見えないが、大きな時空の中に漂っているような心地よさを感じる。次作が本当に待ち遠しい。

(50代女性)

 

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