「五匹の子豚」の読書感想文
この本の序盤を読んで、私はこう思った。「切り口が新しい」と。今まで数々のクリスティ作品を読んできたが、このパターンは初めてである。大抵は事件が起きてから謎解き、という流れで物語が展開する。しかし、この作品は過去に起こった事件を振り返り、犯人とされた人物の無実を証明する、という筋書きになっているのだ。
このパターンはなかなか斬新かつ面白い。物語は5人の容疑者を中心に展開し、犯人の人物像や当時の状況が、それぞれの立場や心情から語られていく。私が最も興味深いと感じたのは、皆が同じ人物について語っているにもかかわらず、全く別人について語っているような印象を受けたことだ。この現象は、現実社会でもよく起きているように思う。
誰かについて語る時、人々は自身が持つイメージや好き嫌いを含めて、その人を評価するだろう。同じ人物について、「とても優しい」と感じる人もいれば、「思いやりがない」と感じる人もいる。「自信がある」と捉える人もいれば、「協調性がない」と捉える人もいる。こういった人間の心理的な側面が、この作品のテーマなのではないかと私は感じた。
この作品が出版されたのは70年以上も前になるが、人間の心理という部分では、今も昔もあまり変わりないのかもしれない。本人と直接関わることなく、周囲の人間からの話だけで人物像を探り、真実を導き出す。実際行うには少々無理のある設定だが、このようなゲームがあれば、なかなか楽しめるのではないだろうか。
個人的には初見よりも、2度目に読んだ時の方がじっくり楽しめたように思う。初めて読んだ時の驚きや衝撃こそなくなるが、真実を知った上で、5人が当時どう感じていたのか、なぜ心境の変化があったのか、などを想像しながら読み進めてみる。すると、見落としていた部分に気が付いたり、また違った面白さが出てきたりするものだ。
ただワクワクするだけや、推理を楽しむだけの物語ではない。人間の心理という身近な存在について、存分に考えさせられる作品である。
(20代女性)
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