実に新鮮な感動を得た1冊だった。「いつもと違う読書体験がしたい」と思い手に取ったのは、私の好きな書評家が薦めていた『黒い画集』だった。これまで作者の松本清張には「社会派で難しそうで、大人の男性向き」というイメージを抱いていたが、そのイメージは鮮やかに覆された。というのは、本書に収録された7つの短編は、ほぼすべてで恋愛スキャンダルの絡んだ事件を扱っていたからというのが、理由の1つだろう。
不倫・二股・秘密の逢瀬…これらの禁断の関係にハマってゆく登場人物が、どんどん平穏な人生から遠ざかってゆく。その様子を滑稽に思ってしまうと同時に、ハラハラしながらも見守ってしまう。また文章が想像以上に読みやすかったのも、作者に対するイメージが変わったもう1つの理由である。
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個々の短編では、『寒流』で1人の未亡人を愛した2人の男の攻防戦が、特にスリル満点でたまらなかった。ずっと押されていた主人公が最後の最後で罠を仕掛ける。その成否は、ラスト1行までまったく読めなかった。また『坂道の家』では、仕事一筋に生きてきた中年男性が、若い女性(キャバレー勤務)に恋したことから悲劇が始まるのだが、そのハマりっぷりは尋常じゃない。
読んでいて思わず「ないわー」と呟きつつも、熱烈すぎる愛情(と執着)がどんな結末をもたらすか気になって気になって、あっという間に読み終わってしまった。そしていちばん仰天したのが『凶器』だ。事件の犯人と動機はわかったとしても、この凶器を当てられる人はおそらくいないだろう。
これまでミステリーや恋愛小説は苦手としていたが、この1冊はほんとうに心の底から楽しめた。少しずつ己の罪が暴かれてゆくスリル、ちょっとしたきっかけで犯人がわかる瞬間の興奮、最後まで読めない結末など、ミステリーのいろんな楽しさがギュッとつまっている。さすがに不倫には賛成できないが、身を滅ぼすほどの情熱的な恋というのは…一生に一度くらいなら、してみるのも悪くはないかもしれない。
(30代女性)
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