飛鳥時代の日本に、古代ペルシャの宗教・ゾロアスター教が広まっていたという説をベースに描かれたミステリー。考古学ファンとしては読んでいて思わずこれは本当の話なのかもしれない、と思ってしまうような一冊だ。
主人公である新進気鋭の考古学者・高須通子と在野の研究者・梅津信六の出会いから展開していくストーリーは、それほど強いインパクトはないが、ついつい引き込まれ、気づくと一気に読み進めてしまった。が、ミステリー小説としては心理描写や表現、情景の描写などは比較的あっさりとしており、やや物足りない感もある。
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それでも古代奈良の文化や宗教にまつわる考察などは、それまで作者が培ってきた知識や、膨大な資料をもとに熟考を重ね、書かれていたのだろうということがよくわかった。その点では小説と言いながらも、主人公が書いた論文について、その執筆過程やその説に至るまでの背景を描いたドキュメント、と言った方が近いのかもしれない。
私自身が大学時代に異文化交流史を学び、それに関する論文を書くためにフィールドワークなどを含め、様々な調査を行った経験があるからこそ、余計このストーリーに引き込まれ、主人公と一緒になって調査・考証をしているような気分になってしまったのだろう。
自分だったらこう考える、このような説を立証するためにここを見に行きたい。主人公が女性ということもあり、なおさら感情移入して読んでしまったような気がした。
また酒船石をはじめ飛鳥地方の遺跡については、今なおその用途が解明されていないままということも、この小説の面白さにつながっていると思う。私もこれらの遺跡にはとても興味があるので、以前奈良を旅するに際して研究書などにも目を通したことがある。
ゆえに、小説を読み進めながら、自身の想像力を膨らませ、ともに推察していくという楽しみ方ができた。とにかく驚かされるのは、清張氏の歴史と宗教に関する造詣の深さだ。読み終えた時には、本当に飛鳥時代にはゾロアスター教が崇拝されていたのではないかという気にさえなってしまった。
次に奈良を旅する時には、この小説を携えて、東大寺のお水取りを見に行きたいと思う。
(40代女性)
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