読書感想文「カラフル(森絵都)」

人は死ぬまで生きているものである。至極当たり前のことではあるのだが、この物語はその当たり前がいかに尊いものであるかを教えてくれた。主人公は、一度死んだ人間であり、生前の自分のことを全く覚えていない。天使のプラプラによって期限付き、しかも他人の身体を借りて生き返りのチャンスを与えられるが、それを喜ぶどころかせっかくただの魂としてぷらぷらとしていたのに、わざわざ生き返るなんて、と、かなり無気力、まるで他人事なのである。

 

この、他人事のように現世を生きてみる、という主人公のスタンスが物語の全編を通して、大変面白い。主人公は小林真という男子学生の身体を借りて学生生活を送るのだが、本来冴えない地味な生徒であった真の身体で、髪型をイメチェンしてみたり、クラスでもひょうひょうと振舞ったり、その激変ぶりに驚くクラスメイト達を大して気にもとめず、かなり自由な行動をしてみせるのだ。

 

私はこの主人公の態度に、私達がこの世界で生きていくための「コツ」のようなものを教えてもらった気がする。物語の終盤、主人公は前世の自分を取り戻す。そう、自分は前世では小林真であったのだ、ということを思い出すのであった。そして小林真として、現世での苦痛に耐え兼ね自殺をした、ということまで鮮明に思い出してしまう。

 

つまり、冴えなくて地味ないじめられっ子であったはずの小林真と、ひょうひょうと自由な振る舞いを見せる主人公は、同一の魂を持つ者であった。にもかかわらず、自分を小林真であるということを忘れていた主人公はいかにも堂々と、やりたいことをやり、言いたいことを言い、生前の小林真ができなかった、親友を持ち、

 

好きな女の子と交流をし、家族と和解し、小林真が自殺を図ったことを、早まったことだと感じるほど、充実した数ヶ月を過ごすことができたのだ。本当は、同一人物であったのに!それこそ、物語の中で主人公本人も呟いているが「だってあれは他人事だったから。」というスタンスが重要であったのだと思う。

 

私はこの物語を読むまで、自分のことをとても臆病者だと思っていた。友達とも言えないような人にさえも嫌われることを怖れ、言いたいことを躊躇ったり、少しの失敗を極度に悔やんだり、正に生前の小林真のようであった。だからこそ、この物語の主人公の他人事として人生を過ごす態度は大変魅力的に感じたし、しかもそれが元々は私のように臆病だった小林真その人の行動であったと分かった瞬間は、大きな勇気を得ることができた。

 

天使という立場からものを言ってくれるプラプラの存在も、そこに輪をかけて、私を励ましてくれた。天界で過ごしている天使という立場にしか言えないような言葉、例えば「せいぜい数十年の人生です。」「少し長めのホームステイだと思えばいい。」といったものは、これからの人生の中で、必ず起こる辛い出来事、悲しい出来事、それこそ死んでしまいたくなるような出来事をも包括して、それでも、まぁ死ぬまで生きていればいいか、と私を励まし続けてくれるに違いない。

 

(20代女性)


 

 

 

今の年齢でこの作品を読んでよいのか、正直とまどいがあった。なかなか読み始めることが出来ないまま何年か時間が過ぎていた。結論からいえば、もっと早く読めばよかった。この作品は40代の自分に清清しさを運んでくれた。最初の20ページほどは、なんだか年齢に合わない作品に手を出してしまい、居心地の悪いような気恥ずかしい感覚に陥った。

 

やはり、迷っていたように40代の自分が手を出す作品ではなかったのかもしれない。そう感じて、いつ読むのをやめようかタイミングを見計らっていた。ところが、なかなか止めるタイミングがつかめなかった。続きが読みたい気持ちが途切れなかった。そして気づいたら、清清しい読了感を味わっていた。

 

きれいごとではない、現実味を帯びた清清しさ。なかなか味わえない感覚を持つことが出来た。主人公が捉える家族像、彼が述べる家族の描写がやけにリアルだった。彼の最大の個性はその感受性と細やかな心情ではないだろうか。感受性が豊かな主人公だからこそ、ほかの人が拾うことなく見落としてしまう細やかな感情を拾ってしまい、とまどいや抱えきれない何かが溢れてしまのではないだろうか。

 

繊細な心情を持つ人だからこそ、それらが降り積もり、自死を選ぶことに繋がってしまったのかもしれない。けれども、やり直すチャンスの入口に立ち、彼の記憶を取り戻す段階で、彼が彼自身の何よりの味方になったのは、その自死を選んでしまったであろう「繊細な心情」で間違いなかったのではないだろうか。この点が、やけに現実味のある皮肉だと感じた。

 

誰もが個性を持っている。主人公の場合は、それが感受性の豊かさや気持ちの繊細さだったと私は感じたわけだが、それらが主人公が記憶を段階において、周りの人を細かく洞察しいろいろなことを感じ取ることで長所へと働いていた。けれども、彼にとってそれらの感受性は、自分が生きていることを絶つほどの苦しみをも与えたのである。

 

次第にカラフルに色が帯びてきた様子は、作品から惜しみなく伝わってきた。記憶を取り戻す段階をカラフルだと考えた場合、自死を選択したかつての主人公がモノクロだったと創造する。急に色は帯びず段階を経ている点にも共感が持てた。自らの持つ個性がカラフルにもモノクロにも働く。同じものを持っていてもどちらにも触れる可能性がある。

 

そのような感想が強く残った。10代の時に読んでいたらどう思っただろう。読んでいる途中で、ふと考えてみた。40代の自分が想像する答えは、10代のそれとは確実の違うのだ。その事実も、この作品は教えてくれたように思う。

 

(40代女性)

 

 

 

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