読書感想文「静子の日常(井上荒野)」

この本の主役は75歳の静子おばあちゃんである。息子夫婦と孫娘と同居している日常生活を描いてあるが、穏やかな中にいろんな小さな事件があり、読んでいてとても楽しいし、共感できる部分がたくさんある。
 
静子さんは、70代の老人に対して自分が持っていた固定概念を、良い意味で覆してくれた。今までの彼女の苦労を考えると、もっと暗く、頑張って乗り越えて生きている!というふうになってもおかしくない。
 
なのに、静子さんが、さまざまな想いをきちんと自分の心の中で折り合いをつけ、自分を裏切り続けていた夫にさえも、憐れみや可笑しさを感じる姿に清々しさを感じた。

 
 
かわいらしくて、人の悪口を言わず、どんなときも家事をきちっとこなす静子さん。彼女の息子が、一晩経つと父親が持ち込んだ家の中の不穏な雰囲気も母がぬぐいさっている、というのを読み、子供に夫婦の嫌なところを見せないというのも素晴らしいと感じた。
 
他人に対しても、冷淡でなく、かつ甘やかすこともなく、適度な距離感で付き合う姿は見事だと思った。
 
こうありたい、こんなおばあちゃんになりたい!途中から、ずっとそう思いながら読み進めた。日本人に欠けていると言われているユーモアのセンスをいかんなく発揮する静子さんは、あまりに魅力的であり、でも、全く手の届かない人でなく、むしろ近くにいるかも、とも思える存在だ。
 
スポーツクラブで、ある女性を中傷したビラがまかれた時、彼女はそのビラを回収しては、それを編み、カゴに作り替えた。
 
誰のことを非難するわけでなく、中傷された女性に声をかけて励ますのでもなく、こんなことをしていても無駄なのよ、と伝えたいがために。感情に振り回されてしまう自分には、静子さんのこういう行動も驚きで見事に思えた。相手を励まして自分を良い人にしないところも、すばらしいな、と思えた。
 
若い人にも自分の考えを押し付けず、相手の気持ちをきちんと汲み取ることで、年代という大きな境界線が、障害ではなくなるのだなと思えた。こんなふうに素敵に年を取りたいと思い、何か嫌なことがあると、この本を読み返しては気持ちを新たにしている。
 
(50代女性)
 
 
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