読書感想文「そして生活はつづく(星野源)」
著者、初のエッセイ集。星野源の全てがわかると言っても過言ではない。ドラマや舞台、文筆業、そして音楽家として何足ものわらじを履いて、突っ走る星野源。だが、一時は仕事のしすぎから過労で倒れ、休養を余儀なくされた。その経験をもとに、ワーカホリックの自分と向き合い、書かれたのが『そして生活はつづく』である。
コンセプトは「つまらない生活をおもしろがる」こと。「掃除とか洗濯とか、そういう地味な生活を大事にしないでしょ。だから、病気になるのよ」という母親の言葉がキッカケだった。仕事は好きだが、生活は嫌い。星野源が言うところの生活とは、本や芝居、音楽をめいっぱい楽しんだあとに訪れる時間を指している。
携帯電話の振り込みがとんでもなく面倒に思えたり、お風呂のカビを見ないふりして過ごしたり、というのは誰しも共感できること。スター俳優でも、ロックギタリストでも、生活しているのだ! という彼の発見がおもしろい。いったい私は生活をおもしろがっているだろうか?と自分に問いかけた。
主婦である私は、朝起きたら、洗濯ものを機械的に洗濯機にほうりこんで、決まった電車で仕事に出掛ける日常。仕事から早く帰らなきゃ、夕食のメニューを考えなきゃ、という無味乾燥な毎日を過ごしているのではないだろうか?
おもしろがる材料はいっぱいあるはずなのに、それもしていないのはきっと私の怠慢なのだろう。そんなことを考えてみる。さて、星野くん。CDを買いに街に出れば、5回も「占いさせてもらえませんか」と声をかけられるくらい幸薄そうな顔をしていて、別にこだわりも無いのに、財布の有り金1万円あまりをはたいて、高級お箸を買うという生活を送っている。
絵を書けば、下半分が液状化してしまい、カップラーメンをストーブで温めて大惨事に。そんなエピソードを赤裸々に語り、笑いを誘ってくれる。しかし、まったく自虐ネタには聞こえないから不思議だ。自分を冷静に見る観察眼こそ、星野源のエッセイを楽しく、心地よくしているのだ。
生活に、アップアップでおぼれそうになっている時こそ読んでみて欲しい作品。忙しい生活のあいまに、サクサク読めるエッセイという形だから読みやすいのだ。明日、会社にいったら何人かの同僚にすすめてみよう。
(50代女性)
この本をなぜ手にとったのかは、今でもわからない。ただ多分、表紙のイラストがたいそう「貧相」だったからだろう。カラフルな書籍な並ぶ中、異彩を放つ「貧相」。人間とはたくさんの選択肢があると、別のものを探してしまう生き物だ。私はその「貧相」を手に取った。
それからこの本の作者は「星野 源」さんということに気付く。「あぁ、、なるほど。。」と思った。なんだか彼からは「欲」をあまり感じない。カラフルな印象よりかはノスタルジーなエンジ色とか茶色とかそういうイメージだ。ここでまず「貧相」の謎が解けた。
どうやら彼の日常が描かれているようだった。ノスタルジーな印象の人の日常。ちょっと覗いてみたくなり購入を決めた。彼の文章はネガティブだった。そして、不運の神様も味方にしている。日常の中の日常を包み隠さず、いや、夏の和菓子にある中のあんこが丸見えのちょっと恥ずかしさを覚えるくらい、リアルな独身男性の日常を垣間見ることができる。
私は女姉妹で育ったので独身男性とはこんな日々を過ごしているのか、と発見の連続だった。私が母親だったら「なんでそんなこともできないの!!」「なんでそうなるの!!」と言っていると思うようなことを彼はやってくれちゃうのだ。でも、なんだか愛おしいと思ってしまう。
これも母心なのか。私はまだ、産んだことがないのに、もう、母心を味わえたことに感謝申し上げたい。私が一番好きな場面はコインランドリー事件のくだりだ。芸能人の彼がコインランドリー。ここもノスタルジー芸能人、星野 源さんらしい日常だ。コインランドリーで彼が一歩間違えば犯罪者となりかねない事件に巻き込まれてしまう。
私が男で同じ立場だったらさぞかしドキドキしただろうし、どのような行動をとっていたのか計り知れない。男性とは、いつなんどき事件に巻き込まれかねないリスクを背負って生きておられるのか、敬意を表したいと思う。
詳細は書かないが、彼はなんとか事件にはならない方法でこのピンチを乗り切った。もし誰かに見られて通報されていたら、と思うと末恐ろしい。車でいうと当て逃げに巻き込まれてしまった被害者という感じだ。そんなとりとめのない日常を彼なりの地味な表現で笑わせてくれる。
下ネタもたっぷり織り込まれたこの本は自分をよく見せようという欲も、いいことを言おうというプライドもない。ただ、ただ、日々を描いたのだと思う。そしてこの本を読んだ人は彼をきっと好きになる。読み終えた私は久しぶりに和菓子を食べたくなった。あんこが透けた和菓子を。
(30代女性)
文藝春秋 (2013-01-04)
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このエッセイが書かれたのは、休養よりかなり前です。