ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で大ブレイクし、様々な方面でマルチな才能を発揮している星野源さん。俳優、歌手、文筆業など、幅広い分野で活躍されており、まさに唯一無二の存在だ。そんな多忙な星野源さんの姿を端的に表現したタイトル「働く男」というこの本。イラストや写真の織り込まれたユニークな構成で、彼の脳内を隅々まで覗き見たような気分になる一冊である。
今やその人気ぶりは説明不要だと思うので、私が読後感じた星野源さんの表現について書いてみたいと思う。私が星野源さんのことを気になり始めたのは、アルバム「Stranger」が発売された時期だった。徐々に星野さんの人気が高まってきていた時期だ。私も世の女子に続いてファンになり、同時期に「働く男」を読んだ。
「働く男」は、2013年初頭に発売され、逃げ恥で大ブレイクする3年ほど前の本ということになる。自分の表現を必死で追求する中で、様々な仕事に追われていることがひしひしと伝わってくる。日常感じるやるせなさなどの自虐もちらほら見られ、思わず共感。
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過去作った曲を作品ごとに振り返るコーナーを読むと、比較的最近のアルバムにも宅録で制作している曲があることや、ストレスや頭痛でさえ楽曲のイメージに昇華させてしまう、とどまることのない創作欲にとにかく驚かされてばかりだ。また、影響を受けている物事や好きな映画などをユニークな文体で紹介していく中で、度々辛かった過去が突如明かされる。
人嫌い風な記述やおしゃれへの嫌悪など、星野さんのイメージからは程遠いような気難しい一面も感じて、ネガティヴかつ毒づいた表現が私は逆に面白かった。星野さんのそういう所が好きな女性読者は意外と多いのではないかと私は思っている。さらに、人気者なのにも関わらず、下ネタを忘れずに入れ込んでくる星野源イズムに、なぜか女の私が勇気と元気をもらう。草食系男子を演じる姿を見ることが多い気がする、そのイメージがぶち壊されることは間違いない。
星野さんの圧倒的な強さは、10代の頃不安神経症になってしまったり、大学受験を失敗していたり、挫折を経験しながらも、どんな状況でも好きな世界と寄り添い、絶対にやりたいことを仕事にして生きていくという想いが強烈だということ。これに尽きるように思う。
そして、普段テレビなどで星野さんの活動を見ていてあることを感じていたのだが、彼の本を読んでさらにその気持ちが強くなった。どうして星野さんはそんなに頑張るのだろう?ということだ。多忙で健康に不安を感じながらも活動の幅を狭めることはしない。その姿勢に尊敬の念を抱きつつも、とっくに活動許容範囲メーターの針が振り切れているような気がしてならない。
テレビやラジオからは分からないが、星野さんの本を読むと、頑張りすぎていることがひしひしと伝わってくるから不思議だ。星野さんの幅広い表現の中で、私には文筆のお仕事が一番彼のありのままの姿に感じ、ダイレクトに伝わってくる。もう少し休みたい、しんどいと何度も書いているけれど、最終的には「楽しい」に行き着ける強靭さ、カオスな状況を楽しめるエネルギー、どんなに多忙でもとどまることのない創作意欲。私はそのパワーを少し恐ろしいとまで感じてしまった。
私が抱いている印象は、すごく悪く表現すると「生き急いでいる」という言葉になってしまうのだが、 少し考えたらその表現は使うべきではなかったと思った。「一度きりの人生」という言葉は飽きるほど聞くが、星野源さんの生き方を目の当たりにした時、この言葉が胸に迫ってきた。
働くということ、やりたいことを全力でやれているか、欲望に忠実に生きているか、自分にとって何が一番大切か。最終的に、今死んでも後悔しないか?ということ。人生について考えさせてくれる作品はいろいろあるが、まさか星野さんのエッセイで自分の人生のことにまで想いを巡らせることになるなんて正直思いもしなかったので、面白くなって笑ってしまった。そんな本ではなかったはずだと。
本来はもっと軽い気持ちでページをめくれる一冊だと思うが、星野さんの文章はよーく読むと自分の中に入ってきて、それがこちらに向けた「働く」ことへのエールのようにも感じ、勝手に勇気をもらった気がしている。「働く」ということは、生きているということ。
頑張りすぎてしまう星野さんの綴る文章は、ものづくりへの希望に溢れているが、ユルさとくだらなさも強めなので、軽い気持ちで楽しむのが一番楽しめるかもしれない。とにかく一生懸命毎日やりたいことを仕事としてやり続ける。彼は「働く男」として濃密に生きている。星野源さんの仕事への強い想いを思い知らされる一冊だ。
(30代女性)
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