「ペスト」の読書感想文
泣いた。初めて読んだ時に泣いて、それから読むたびに泣いてしまう。私は結構な読書家で相当数の本を読んでいるつもりなのだが最初に読んだのが確か大学時代だったろうか?それでも今だにたぶん一番好きな小説なのではあるまいか?
カミュと言えば「異邦人」が有名ででそちらも大いに衝撃的だったのだけれどそれはどちらかというとおっかない本だった。一言で言えば私たちとは違うルールで生きている人間と周りの世界との関わりという感じで薄気味悪い意味でショックだった。何か自分が信じていた倫理観が崩壊していくような感覚だったのを覚えている。
それはそれで新鮮ではあったのでカミュの他の本を読んでみようと結構分厚いこのペストを読んだのだった。ただその時は異邦人の印象が強かったせいでこのペストの方もまた小難しい哲学的な話になるかとおもいきや、これがまた全く違っていてペストで封鎖されたある町で献身的に人々を助けようとする三人の話だったのでそれがちょっと意外であった。
初めはこれはもうまさかお涙頂戴もののメロドラマになるのか、そういうのはどうもロマンチックすぎて苦手だなあと読み進んでいたのだが、文章そのものは乾いたものだし物語はただ淡々と進んでいくだけなので特別悲劇的な場面などはないのだが、なんだろう?これは。
ペストという抗いようもない災厄の中でそれでもただ黙々と人々のために尽くしていく主人公三人の姿に畏敬の念を感じざるを得なかったのである。私自身はどちらかというと世の中を斜に観ていて性悪説とまではいかないにせよ世のため人のためといったような台詞を正面切って言うのは恥ずかしいし自己満足にすぎないじゃないかとか思っている。
それはたぶん今でもそうなのだが、しかしこのペストを思い出す時は何かそれではいかんよなあ・・と反省できるのである。今のご時世なんかもう生きていること自体うんざりしてくるなとか、自分ってなんたる悪党なんだろうとか気がめいったとき、私はこのペストを思い出す。
この主人公三人だって別に神様でもなければ聖人君子でもありはしない。ごくごく普通の人間だった。けれども彼らはただ淡々とたぶんそれがその時するべきことなんだろうということを実行していく。その力が重要なんだろう。
(50代男性)
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