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読書感想文「魔法使いとお菓子たち(森村桂)」

私が幸せを感じるのは大好きなお菓子を食べる事である。お菓子を食べる時はまずその姿かたちを心ゆくまで眺め、まぶたの裏に焼き付けてからおもむろに手を伸ばし、感触を確かめてからゆっくりと口に運ぶ。私はお菓子の中でも和菓子では大福、洋菓子ならビスケットやクッキーが好きだが、他の物より親しみやすい所が魅力でそれぞれが美味しい。
 
しかし毎回同じ種類のお菓子をおやつの時に食べるのを習慣にしていると、ご飯を食べているのと同じような感覚になる。そんな時は森村桂さんの著作を読むと他のお菓子を食べたくなるので不思議だ。特に本著の「魔法使いとお菓子たち」は森村さんと彼女が愛するお菓子にまつわるエピソードがつづられているが、どれもユーモラスで面白い。
 
森村さんはご自身でもお菓子作りが好きで、お手製のお菓子を知人やお友達に贈ったりご家族と召し上がったりするが、美味しく焼けるのは魔法使いがいるためだと書いている。森村さんの並々ならぬお菓子への愛情は彼女を有名洋菓子店へと足を運ばせ、材料に使う高級洋酒や果物を買うためにお店へと向かわせる。この著書の中で私が印象に残っているのはPART3の「タルトのお腹でタルトを食べる」というエピソードだ。
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森村さんがタルトを初めて知ったのは大学一年の時に読んだ小説『迷路』に登場したからだ。今でこそタルトが焼いたクッキー生地の土台に黄色く光るカスタードクリームや甘酸っぱいあんず、苺などの果物を乗せたお菓子だという事が知られているが、当時の日本にはタルトを売っているお店などなかったのである。
 
彼女は好奇心旺盛で、小説や物語のお菓子や料理が出てくる場面を読むと、そのお菓子や料理を実際に食べるまでずっと気になって、頭から離れなくなるらしい。食べないと最後まで本を読む気になれないそうだ。私も本を読む時に心に残るのは主人公やその周りの登場人物が美味しそうな料理やお菓子を食べている場面なので、その点は森村さんに共感出来る。
 
彼女はタルトに関してはなかなか体験出来ないので『迷路』という本も途中までになっていたが、ある時近所の洋菓子屋さんで憧れの「タルト」を発見する。それは食パン一斤くらいの大きさで、パイ生地にレーズンやチョコレート風味のカステラ、赤いジャムなどを詰め込んだお菓子だった。
 
彼女は初めてそのタルトを食べてから、毎日のようにそのお店に行って「タルト」を買い、家に帰って一人で食べた。私は現在知られているタルトより、この小さな洋菓子店の「タルト」を食べられたら幸せだと思った。ずっしりとして重たく甘すぎない味で食べごたえがあり、食べ終わった後に満足して幸せな気持ちになるお菓子。
 
森村さんは当時お腹を壊しやすい体だったがすっかりこの「タルト」に夢中になり、これを食べるためにアルバイトをしてお金を稼ぐ決意をして、一生食べ続けると誓いを立てたそうだ。しかしその誓いを立てたのもつかの間「タルト」を買った洋菓子屋さんがつぶれたため、再び「タルト」なしの生活に戻ったと言う。
 
その店がつぶれてから神戸で現在知られている果物が乗ったタルトが発売になったので、森村さんは本当の「タルト」の味を知る事になり『迷路』を最後まで読むことが出来た。彼女の近所の洋菓子屋さんも、本に登場する「タルト」をどんなお菓子なのか分からなかったが、色々考えて作ったのだろう。
 
一生の忠誠を誓わせるお菓子がどんな物なのか未だに私には分からないが、森村さんのようにお菓子と幸運な出会いがあるのは魔法の力が働いているとしか言いようがない。本著に登場するお菓子が食べたくなるのは森村さんも魔法使いだからなのだろう。
 
(40代女性)
 
 
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