「コンビニ人間」の読書感想文①
先日、「とりあえず婚」というものが存在するというニュースを読んで、驚いた。文字通り、とりあえず結婚はするけれども、夫婦生活はなく、男女がシェアハウスに住むような結婚のことをいうようだ。まるで、この物語に出てくる古倉恵子と、白羽の共同生活のようで、気味の悪さを感じた。以前、派遣で働いていた職場にも恵子のような人がいた。
その人は、朝、決まった時間に起きて出社し、昼は社員食堂で昼食をとり、その後新聞を読む。退社後は毎日、決まった食堂で夕食をとり、家に帰って就寝時間までゲームをして過ごすという。多くの人が生きていたら出合うであろう恋愛や、結婚、子育てにも合うことがなく、その人はまるでデジタル時計のように、日々を過ごしていた。
軽蔑はしないけれども、自分には怖くて、そんな生活はできないと感じた。人間は機械ではないから、どんなに健康な人でもやがて年老いていく。同じことをして生きていけない日に直面したとき、自分が理性を保っていられる自信がない。恵子に最初に違和感を感じたのは、恵子は「他人が見ているもの」を気にしていないようで気にするわりには、「自分自身の姿」にはまるで興味がなく、自分自身の将来に対する不安がなかったことだ。
しかし、それ以上に白羽との共同生活には違和感を感じた。恵子のアパートに住む白羽はまるでペットのようだったし、白羽は白羽で、恵子が自分を飼うことで得られるメリットを知ったうえで、彼女が自分のことを世話をするのは当たり前だと考えていたからだ。結婚生活には相手に対する思いやりや忍耐が不可欠だが、この二人の共同生活には、それがまるでなかった。
二人の共同生活が破たんし、恵子が自分自身が「コンビニ人間」であることを強く実感するに至ったのも、白羽が驚くばかりに自分のことばかりを考え続け、恵子の性格や生き方に興味を持たなかったせいでもあると感じた。人が人とかかわる以上、相手に対する最低限の気遣いは必要であると、痛感した。
しかし、自分自身を振り返って、自分自身に他人への思いやりがあるかどうかを考えてみると、麻美のように、結婚をして子供を産み育て、自分と同じように生きる人に対して思いやりや同情を感じることはあった。しかし、恵子のように、自分にはできないような生き方をする人に対しては、それを自分の「好き」か「嫌い」かに勝手にふるい分けをして、「嫌い」なときは、勝手に相手に劣等生のレッテルを貼り、どこか見下してしまっているところが、あるような気もする。
自分とは違う考え方をする人を批判をしないようにしようと注意はしてきたけれども、恵子に対して「ありえない」と感じる自分はどこか自己中心的で、思いやりを欠いていた。恵子が長年勤めたコンビニを辞め、自分を見失いかけてしまった一端に、私を含め、周りの思いやりに欠けた視線があったのかもしれないと、自分自身を反省するきっかけにもなった。
この物語を読んで、どのようなシチュエーションにおいても、人と関わるためには相手への思いやりが気遣いが必要だと感じた。そして、その「思いやり」とは、相手の生き方を心配して干渉することではなく、相手の生き方や考え方を、ありのままに受け止めることでもあるのだと感じた。今後、誰かと関わるときにも、そのことに留意して、過ごしいていきたい。
(30代女性)
「コンビニ人間」の読書感想文②
芥川賞受賞という名誉ある作品ながらタイトルはとても簡素で、しかも身近な存在だけに一度読んでみようかと思わせる作品だ。実際読んでみても、比較的難しい漢字や文章が使われている訳じゃない、コンビニという場所も想像がしやすくどんどん読み進める事が出来る。ただ内容はというと軽い話ではない。
主人公の女性は正社員での就職をせず何年もコンビニ店員として働いている。30歳を過ぎた彼女には彼氏もいない。そして必要ともしていない。私がこの作品でおもしろいと思ったところは彼女の生きる術にある。彼女は世間の常識がよくわかっていない、わからないから本来住みにくい世界であるはずなのだが彼女はコンビニというマニュアルどおりに動くという世界を知り、魅了されていく。
そして住みにくい世界を渡っていく術を知っていた。仲間であるコンビニ店員とは上手くやっている。それは彼女が彼らの真似をすることで彼らから仲間として認められるようにしているからである。彼女は彼らの服や持ち物を観察し、それと似た雰囲気を自分も身につける。彼らの話しことばも反復したり同意することで同じ意見を持った人間だと思わせる。
これらは俗にいう一般的な人々にも参考になる話ではないだろうか。自分を表現するという事も大事ではあるが、人と合わせる事で受け入れられやすくなると言うのは日常、またはビジネスにおいて有効な手段ではないだろうかと感心した部分である。そして舞台となっているコンビニの実情がわかるのもおもしろい要因である。
コンビニ店員の仕事から、それに関する努力だったり考えが客としていくのではわからないコンビニの魅力が随所に見えて楽しい。このお話を読むとコンビニ店員に敬意を払いたくなるのは必須だ。最後にはお金もない愛もない男性と一緒に住んだり、コンビニをやめてしまったりとどうなるのかとハラハラさせられるシーンが続いたが彼女の最後のシーンは少し背筋が寒くなるような感覚に囚われた。
(40代女性)
「コンビニ人間」の読書感想文③
主人公は36歳の女性で、正社員としての就労経験がなく、ずっとアルバイトをして生きてきた。実家から出て自分でアパートを借りて立派に自立している。しかし作品の中で、主人公は周囲から絶えずそのことで責められ断罪されているかのようだ。日本には、そういう若者がそんなに少ないのだろうか。
主人公と同じ30代後半から40代にかけてはちょうど就職氷河期なので、正社員になれないままアルバイトや派遣の経験しかない人は決して少なくないだろう。自立できないまま実家にいる人も多いし、アルバイトもできていない「引きこもり」の人も少なくない世代だと聞く。
仕事として何のスキルもつけないまま年齢のいった氷河期世代が、やがて親を亡くす頃には、大量の生活保護受給者が出るのでは、なんて話も聞く。主人公はそんな世代なのに、ちゃんと経済的に自立を果たしている。作品中では、まるでコンビニのアルバイトが誰でもできる仕事であるかのように描かれていて、ずっとコンビニで働いている主人公もダメ人間であるかのように強調されて描かれている。
しかし実際は、一つの仕事を続けることは難しいことであり、それが出来ている主人公はそれなりの社会性を備えているんだろうと思う。加えて、コンビニの仕事は誰にでも出来るものでは決してないだろう。年齢がいってからのコンビニバイトは続かないと聞く。
コンビニの仕事は、荷物の発送や公共料金の支払い、原付きのナンバープレート取得の手続きやチケット購入など、とても多岐にわたり、覚えることが多いからだ。私は、作品中で主人公が周囲から責められるたびに、とてもいたたまれない気持ちになった。そんなに言われるほどダメ人間ではないし、その世代でその個性でその環境で、すごく頑張っているんだから胸を張っていいと励ましたい気持ちになった。
一方で、主人公の個性として、周囲からどういう目で見られるのか、自分がどう評価されるのかという点に全く興味を持たない様子なのが大きな救いであった。それはある意味最強の武器だろう。何よりも、コンビニの音や、作業や、空気、そこにいることそのものに主人公が慣れ親しみリラックスできていることは、主人公がコンビニ人間として生きることが幸福であることの証に他ならないと思った。
(40代女性)
「コンビニ人間」の読書感想文④
この本を購入したのは某フリマアプリである。きっかけは皆さんとほぼ同じだと思うのだが、芥川賞受賞のニュースを見たのが記憶に残っていて、面白そうなタイトルであることから、いつか購入して読んでみようと思っていた。そして一年後に、フリマで購入に至った訳である。実はここが私流の本の買い方でもっとも大事なところでもある。
とにかく流行り廃りで本を買うことが大嫌いで、本当に面白い本というのは、例え10年後に読んでも遜色なく面白くなければいけないと勝手に思っている次第である。つまりは「コンビニ人間」このタイトルが一年後であるにもかかわらず私の心に残っていた時点で、私の中での合格であったということになる。
この本を一番手っ取り早い言葉で表現するのなら、それは「狭さ」ではないかと思う。それはコンビニというスペースの狭さでもなく、そこで働く人間たちの狭さでも、もちろんない。私がこの本から捉えた狭さというのは、人間の思考を受け止めることが出来ない、この社会の狭さである。今人間社会はかつて例をみない転換期をむかえている。
それは何も資本の偏りや、差別、貧困だけが問題になるのではない。溺れるほど膨大な情報の中を必死に泳ぐ人間、泳ぐことをそもそも諦めた人間、そのどちらにしても、結局はこの目の前にある狭い社会の中で誰もが生きていかなければならない。誰もが肥大化した自分の脳と共に。作中に登場する主人公の古倉、そして新人のアルバイトの白羽。
おおよそこの二人の関係がこの物語を作り上げていく事になる。作中二人は共に、自分がいびつであり異質であると言い切っているが、読んでいるとそれを感じる事が出来ない。奇異な言動もあることにはあるのだが、今の世の中にあってはなんら不思議ではない感覚であるからだ。
それよりも、古倉がコンビニにしか意味を見いだせない人間であること、そして頭の中の妄想だけで生きていく白羽に、私は自分を重ねずにはいられない。許容とは、自分のすべてが受け入れられているのではなく、自分という生き物のある一面だけである。
(40代男性)
「コンビニ人間」の読書感想文⑤
この小説は個人的に非常に不愉快だった。しばらく憂鬱というか嫌な気分を引きずることになった。一言で言うなら日本の同調圧力を題材にした小説だと感じた。主人公は変わり者で周りに合わせる事ができない人間だが、コンビニという1から10までマニュアル化された仕事をすることで社会に溶け込めるようになるのだ。
変わり者であることで周りとの衝突、生きづらさが生々しく描写されていて苦しくなる。私も変わり者だと自覚しているため周りから変な目や白い目で見られる居心地の悪さ、理解不能だと急速に距離を置かれる感覚がよくわかる。
ただし主人公のすごいところはそれらが平気そうなところだ。あくまで家族が心配するから普通のフリをしているだけなのだ。なので主人公にシンパシーを感じて感情移入も強くなった。坦々とコンビニバイトをしているシーンではバイトとはいえ仕事のコツがたくさんあり、それらをこなす主人公はむしろ立派じゃないかと感じ、それを評価されている描写で嬉しくなった。
コンビニという大変な仕事をこなし、人付き合いもこなしている。表面上装っているとはいえ、それらをこなせて生活出来ていることがすごいと感じたし優秀な人間だなぁと羨ましくもなった。しかしコンビニという生きる場所を見つけた主人公に年齢というタイムリミットが迫るのである。
つまり今まではコンビニでバイトしてる若者という普通の人だったがいい歳をした女性が恋人も作らずコンビニでバイト生活しているという変わり者になってしまうのだ。それが変かどうかは個人的意見で私はまったく変だと思わないが、結婚して母となってる姉妹や友人との付き合いの中で比較され変だと浮き彫りにさせられていく。
そしてある出来事で今まで普通に溶け込めていると感じていたがそうではなかったと気付かされるのだ。今まで周りの人間たちは指摘しなかっただけで違和感を感じたまま付き合っていたのだ。これには絶望した。なんだこれは全否定ではないか。
前部分で順調に行ってて安心していただけに落差が大きくショックも大きくなった。もしかしたら私の周りの人間も言わないだけでそう思っているのかもしれないと想像すると怖くなる。最後は光明が見えたような気もしたがそれはあくまで主人公だけの光明である。
世間は社会はそれを許すだろうか。私には最後まで希望の無い物語に思えた。自分の事を変わり者だと自覚する人には勧められない小説だと感じた。
(30代男性)
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