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読書感想文「しろいろの街の、その骨の体温の (村田沙耶香)」

田舎の町に住んでいたせいで、小学校から中学校に進級してもたいして代わり映えもせずに、転校生が1人か2人いるくらいで、学校生活のなかで周囲はずっと同じだった。その毎日繰り返される閉鎖空間のなかで、何人かが飽きはじめて自然にイジメが始まった。
 
「きもい」「ブス」「死ね」という言葉が容赦なく響き、それが自分に向けられているのではないかとドキドキする。世界は広いと聞いていたけれど、そのころはその閉鎖空間が紛れもなく世界そのものだった。この本は、その頃のクラスの独特の雰囲気だとか臭いだとかをありありと思い出させてくれて、少し読むのが苦しかった。
 
小学生のころ仲が良くて毎日のように遊んでいた友人とは、なにがあったわけでもないのに中学で同じクラスになったら目も合わせなくなった。そういう事が日常的になってしまうと段々とマヒしていって、無視をしたりして誰かを傷つけてもそんなに悪いことじゃないと思い始める。だってみんな同じことをしているじゃない、と思う。
 
結佳が伊吹を「おもちゃ」として扱い始める様子は、子どもっぽくて、愛くるしくて、自分勝手だと感じた。伊吹との関係を続けてその秘密を共有することで、他の女の子たちとは違うと自分を保ち、クラス全体を客観的に観察し、見下すことで心の安定を図る結佳に共感しながらも、世界がゆがんでいて気味が悪いと思う。
 
「しろいろの街の、その骨の体温の」という表題の違和感が消えないまま話が進んでいって、その不穏さに途中で怖くなった。だけど、なるべく目立たないように努めていた結佳が、伊吹のことをきっかけにクラスから転落したときに、展開はまたたく間に変化し、彼女が成長をとげる様子に目が離せなくなる。
 
「私には値札がついてて、その数字がすごく低いんだ。でも、私、それとは関係なしに、すごく綺麗みたい」という結佳の言葉が好きだ。伊吹という純粋で、無垢で、まっすぐな存在のおかげで彼女はクラスの見えない順位付けの外側に向かうことができた。わたしにも中学の頃、伊吹のような存在がいてくれたら、と羨ましかった。
 
(20代女性)
 
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「しろいろの街の、その骨の体温の」タイトルだけ見るとどういう物語なのか、なかなか想像しにくい。端的に言えばこの物語はスクールカーストについてのお話である。主人公の結佳やクラスメイトの置かれる立場の変化や心情の変化、成長が描かれている。しかしこの本はどこにでもある学園ものの小説とは明らかに違う。
 
とてつもなく繊細であり、緻密だ。主人公の結佳とこの物語の核を担う人物が同級生の伊吹である。この伊吹が1000人、いや10000人に一人の底抜けのいいやつであり、この話の中では異質な存在だ。小学生だった結佳が中学生に上がると小学生時代には薄かったグループ分けやカーストが如実になり、周りの人間がこれに飲み込まれていく。
 
人にどう見られるかをとにかく意識して教室で立ち回る。これはこの話の中だけでなく、現実世界でもそうだろう。多かれ少なかれみなが人の目を意識し、自分の本心だけでは言葉を発しないように思う。常に人の上に立とうとし、マウントをとろうとする。この傾向はこの近年でどんどん加速しているように感じる。
 
ひとつ例に出すならインスタグラムがわかりやすい。インスタグラムに空の写真撮り、投稿する。その行動に関し馬鹿にした発言をよく聞くように思う。こういった発言をする人間が人の上に立とうとし、マウントをとろうとする人間だ。これは一種の自衛である。自分が攻撃されないように先手を取って攻撃する。
 
しかし空の写真を投稿する当の本人は意に介していないように思う。ただ自分がしたいことをしているだけであり、周りの評価などどうでもいいのだ。同級生の伊吹はこの物語で唯一周りの目を気にしない。誰しもが人の視線を気にして生きる中、無二の存在であり、非常にまぶしく映る。主人公の結佳はカーストの下ではあるが底辺ではない。
 
底辺に落ちないよう過剰に人の目を気にして立ち回る。小学校時代の友人である信子がカーストの底辺に落ちると人目のあるところでは会話をなるべくかわそうとしない。自分が同じ位置であると思われたくない一心で、だ。この、人の浅ましさや醜さの描き方があまりにも繊細であり、度肝を抜かれる。
 
そして読み手自身の浅ましさをも痛いほどに、苦しいほどに突き付けてくる。必ず自分と対話し、向き合う時間を創り出してくれる小説である。あることをきっかけに主人公の結佳はカーストの底辺に落ちる。今まで人の目ばかり気にして生きてきた結佳だが、その視線の外側に落ちることで本来あるべき姿を取り戻していく。
 
人の目を気にした目線や発言でなく、自分の感じるままに世界と触れようとする。この小説は非情に性的な描写が多く、苦手な人もいるかもしれない。だがこの小説から目を背けず向き合ってほしい。この物語を読み終えたとき、自分だけのものさしで世界を測って生きようとさせてくれるはずだ。それは簡単なことではないだろう。だがその気にさせ、次の一歩を踏み出す強い勇気をくれる。
 
(20代男性)
 
 
 

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