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読書感想文「生まれいずる悩み(有島武郎)」

夢と現実の乖離は苦しいものである。その葛藤を描いているこの小説に私は感銘を受けた。画家になりたい、ミュージシャンになりたい、プロ野球選手や俳優、音楽家、漫画家…などに一度は憧れを持った人も多いと私は思う。私もその内の一人である。
 
これらは才能を必要とする職業だ。私は努力のみでこの輝かしい舞台に立てるものではなく、努力は才能を伸ばすためのものであり、才能を産むものでは無いと考えている。つまり、大小を問わない天性の才能があり努力で伸ばすから成功する職業なのだ。
 
私は漫画家になってみたかった。だから、自分の中の小さな才能を信じて頑張った時期があった。けれど、まず絵が描けないのだ。ヘタクソなのだ。漫画家はなりたいと強く願っても、絵が上手くならなければなれない職業である。だからこの頃、その現実と夢との乖離に苦しんだ。
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その時期に、たまたま読んだのがこの小説である。一言で言えば、その頃の自分に寄り添ってくれた小説だった。そして、この本の中に出てくる主人公の気持ちも痛いほどよく分かった。この小説も丁度、青年の画家という夢と今の置かれている現実との葛藤を描いたものであったが、当時の自身とも重なる所があった。
 
こんな悩みは実際には友人に恥ずかしくて言えないものである。だから、言えない悩みを小説の中で聞いてもらっている感覚だ。夢からの逃避もあったかもしれないが、ひどく救われた気持ちになった。あぁ、この主人公も同じく苦しんでいるんだ、苦しい気持ちは一緒なのだと思える小説だった。
 
この小説の終わりは決して明るいものではない、しかし何かしら前へ押してくれるものがある。これがもし画家の夢が叶ったハッピーエンドだったなら、ここまでの感銘を受けなかっただろう。恐らく、最後に私だけ取り残されていたと思われる。少し暗めのエンドだからこそ現実感があり、私の深い悩みに共感を与えてくれたのだ。
 
だからこそ、読み終わった後に前向きにもなれたのだ。この小説とあの時に出会えたからこそ今も絵を続けることが出来ているのかもしれないと、私は思うのである。
 
 
(20代女性)
 
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