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読書感想文「旅のラゴス(筒井康隆)」

「旅のラゴス」の読書感想文①

人生は旅のようなもの、という比喩はよく目にする。実際にこの「旅のラゴス」は、ラゴスという主人公が現世とは違う不思議な世界を、人生をかけて旅していく物語である。特に筒井康隆ファンでもないので、だいぶ前に出版されたこの作品に接したのは近年の再評価後である。
 
巧みな文章はもちろん、量としてもさほど多くないので、一気に読み切ってしまった。私が特に印象に残っているのは、ラゴスが旅の道中野盗に囚われ、奴隷として働かされる場面である。奴隷とはいえ、ラゴスは持っている知識で鉱山の中でも指導的な立場となり、設備を改良したり、同じく囚われた美しい娘と結ばれたりして数年を過ごすことになる。
 
やがて野盗の頭目がいなくなると、ラゴスは周囲からその鉱山を取りまとめるよう周囲に勧められる。しかし、ラゴスは自身の目的が旅を続けることであることを告げ、共に過ごした娘と別れて歩み続けることになる。30代を過ぎると、この感覚がよくわかる。
 
日々は淡々と、あっという間に過ぎていくのだ。望んだものであろうが、望まないものであろうが、働いていれば時間は年単位でどんどん過ぎていく。そしてそこにいる自分に満足してしまう。ましてや支えるべき家族ができれば、自分一人の意思で環境を変えることなど不可能だ。そして、自分の限界を知って受け入れることも、大人になることだと思ってもいる。
 
そこをラゴスは静かに越えていく。決して感情を露わにすることはないが、旅を続ける意思は揺るぐことがない。鉱山に留まり、たくさんの人を使って、幸せな家庭を築いてもよかったはずだ。しかし彼は歩みを止めない。言動からはあまり感じられないが、ラゴスは実にエゴイスティックな男なのである。
 
このエピソードは旅の前半で、この後もラゴスには楽しいことも苦しいことも襲い掛かる。だがラゴスは旅を続ける。目的に一切のブレがない。じゃあラゴスは嫌われるのか、というとそうではない。むしろ道中では、男女問わずラゴスに魅せられる人物の方が多い。覚悟を持った人間は、本人にその気がなくても周りを引き付けるものである、というのは現実の世の中でも同じなのだろう。
 
もちろんSFの大家である著者の発想は、今作でも読者を楽しませてくれる。もっと若い時にこの作品に出合っていれば、私もそこに注目したのかもしれない。だが、社会に出て齢三十を超えた今、この作品を読んで思うことはラゴスの静かな強さ、である。今どのような状況にあっても、人生という旅は続く。終わるその瞬間まで、私もあきらめずに歩み続けたいと思う。
 
(30代男性)

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