この本は、いわゆる実験小説というジャンルの中に入る小説の一つである。「世界から一文字ずつ言葉が消えてゆく」というテーマで物語が進んでいく。初めは、「もしこの世界に「あ」という文字がなかったら」から始まり、小説のストーリーは「あ」という一文字の言葉が一切出てこない状態ではじまる。
その次は、「もしこの世界に「あ」と「い」という言葉がなかったら」と続いていき、だんだんと使用できる言葉がなくなっていく。最初の「あ」だけがない状態ならば、大したことはないようにも思える。しかし、「あ」という言葉のない世界ということは、「愛」という小説などでは特にキーワードとなる言葉が存在しないということになる。
「あ」を含む言葉がいかに多いことか、この小説を読んで考えてみると実にたくさんあるかを思い出させられる。小説のストーリーとしてもとても面白い。使用できる言葉がどんどんと制限されてゆく中で、小説がどのように描かれてゆくのか、そこを自分もまるで筆者であるかのようにドキドキしながらページをめくってゆくのは、他の小説では味わえない独特の快感と言えるだろう。
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もうこんなに使える文字が少ないのに?どうするの?どうなっちゃうの?そもそも小説としての体裁を保って続けられるの?と、読んでいる方がドキドキする感覚は、なんだか筆者と一体感を強く感じることができて、共感とはまた違う不思議な感覚でとてもおもしろい。私がこの本を読んで思い出したのが、いわゆる「言葉狩り」が目立って行われていた時代であった。
子供の頃から親が話していた言葉が、差別的であり使用する言葉として不適切ではないとされ、テレビやラジオなどのメディアで扱われなくなることが多くなり、代用語がたくさん生まれることになった。
それまであった言葉が死に、新しい言葉に変わったことでまったくニュアンスの異なるものに変わってしまい、その事象の本質が見えなくなってきたことを、危惧し、そして皮肉った小説なのかもしれない。しかし、そういった背景を知っていても知らなくても、普段私たちがどれだけたくさんの言葉に溢れているか特に日本語というものは、それを再認識できる小説だとおもう。
(30代男性)
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