読書感想文「火の粉(雫井脩介)」

偽善者と一言で片づけられない異常な犯人武内を通して、じわじわと恐怖が近寄ってくる。犯人と呼ばれる人の影には、到底考えられない歪んだ時間が存在すると考えられるが、その歪みを持ってターゲットにされてしまった家族が自分を無罪に導いたはずの元裁判官梶間の家族である。

 

人生を更生しているかのように見せている犯人の、ずうずうしいまでの親切な態度に苛立ちと嫌悪感を覚えながら、また、その正体に全く疑問を示さない家族に対しも焦りと腹立たしさを感じてくる。そんな中、元々裁判で争った被害者側の人たちとの繋がりが見えてくる。家族の中にも疑問を持ち、真相に近づいてくる人物が現れる。嫁の雪見である。

 

直感的に気の置けない人と感じ取る雪見だが、狡猾な犯人に先手を打たれ放浪されることになってしまうのである。また、狙われたこの家族の一人一人にもストーリーがあり、高齢化社会の姿や、若い世代とシニアの世代との価値観の違い、嫁と親戚との立場の問題などが、このストーリーをさらに引き立てる役割を担っている。

 

 

 

現実社会でも毎日のように事件は起こっているが、それらの犯人の背景には何があるのか、どのように育ってきたのか、この本の犯人も母親から虐待を受けていたと思わせるシーンがあるが、何かしら歪んだ考えになってしまう原因をどこかの時期に経験をしているからこの様な理解のできない犯人が出てきてしまうのかもしれない。

 

正しく育つことは難しいことなのか。誰しも、生まれてすぐは真っさらな状態で生まれてくるのに、周りの環境だけでこの様な違いが出てくるならば、その環境を整える何かが必要なのかもしれない。何の修正もされずに大人になったこの本の犯人の様に、表の顔に隠れた真の姿を突き付けられた時の恐怖は、正しく生きていた人間には分からない事だろう。

 

ただ、学ぶことは出来る。犯人=悪の考えの中に、何故悪になったのか、また悪から更生する事は出来るのか。この物語は裁判の舞台が大元にあるが、日頃私たちも考える事で、もしかしたら将来の犯罪を今、止める事が出来るのかもしれない。そんなふうに思えた。

 

(40代女性)

 

 

 

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