〜名作が見つかる読書感想文の掲載サイト〜

読書感想文「フラナリー・オコナー全短篇(フラナリー・オコナー) 」

「フラナリー・オコナー全短篇」の読書感想文

アメリカ南部という重層的な歴史や慣習を持つ土地と、キリスト教信仰がベースとなって織り成す、気持ち悪くほの暗く辛らつなラインナップである。南部ゴシック然とした短篇集はまさに時間を忘れて読みふけってしまう作品の連続だった。

私は南部のむさくるしさや埃っぽさが肌にからみつくような気分に陥るオコナー作品の数々で、なかでも「田舎の善人」が抜群に気に入った。

娘の病やそれにより遠慮の生まれた母娘関係、そこに異分子ながら家族的な関係性で公私を侵食しあう雇われ女という典型的な構図にやってきた男。この男が物語を動かしていくところまでは想像が付くが、その動かし方が大変に気持ち悪かった。

そして私はこの不気味で後味の悪い短篇が心地よく感じられた。田舎の善人とは何者なのか、信仰心とはいかなる救済を導き出すのか、肉体と精神とはいかに結びつくものなのか、アメリカ南部とキリスト教というオコナーのオーソドックスな土台から最も高く遠く飛躍した内容に大きなため息が漏れた。

そして初期作品として収められた「ゼラニウム」は学生の時分に書いたというので驚愕した。もう老いてしまった現実、娘に引き取られることになってしまった現実、田舎からニューヨークに来てしまった現実、黒人が白人と同じように生活している現実、それまで過ごしてきた数十年の常識や価値観が、老齢になり世間や実子からひっくり返されるというのはどのような気持ちがするものだろうか。

差別や偏見に満ち、体力も気力も失われていくばかりの滑稽でさえある老人男性に対して私が抱いたのは哀れみや同情ではない。どの時代であれどんな場所であれ時間は確実に流れ、価値観はますます多様化を見せ、常識が非常識になり、非常識が常識になる側面は必ず出てくる。

人間社会において時空を問わず起こる、ある意味で普遍的な価値の転換に置いていかれ、過去を懐かしみ、その過去を象徴するゼラニウムを慈しむ老人の姿にただ寄り添いたくなったのだ。まさに時空を超えて私の生の感情に届く1冊だった。

(20代女性)

Audibleで本を聴こう

Amazonのオーディオブック「Audible」なら、移動中や作業中など、いつでもどこでも読書ができます。プロのナレーターが朗読してくれるのでとっても聴ききやすく、記憶にもバッチリ残ります。月会費1,500円で、なんと12万以上の対象作品が聴き放題。まずは30日間の無料体験をしてみよう!!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA