「とるとだす」の読書感想文
畠中恵さんの本を読むと優しい気持ちになれる。数年前、職場の同僚から勧めたい本がある、と言われ借りたのが「しゃばけ」だった。“あやかし”と表現される、妖怪や子鬼、そして神様まで登場する内容にすぐに虜になった。
幸いなことに当作はシリーズ化され、その後も新作が出る度に読ませてもらっている。そして今回、最新作の「とるとだす」を読む機会に恵まれた。主人公の若旦那が病弱なのは“相変わらず”であるが、今度は若旦那の父が倒れてしまう。
倒れた原因が「自分のため」であったと知った若旦那は、親の情に感謝すると共に、何とか父を回復させようとあやかしの力を借りて奮闘する。奮闘するとは言っても、体の弱い若旦那、そしてその若旦那の大事が一番の兄や達に囲まれた中でのそれである。
しかしながら、文中に聡明とは表現されてはいないものの、若旦那の物事の収め方にはいつも感心させられる。というか、優しい気持ちにさせてくれる。
そんな若旦那を囲む面々もひょうきんだったり、身勝手だったり、自分がいっちばん!であったり、褒められない気質も持ち合わせているのだが、若旦那を大事に思う気持ちに変わりはない。
今作では、若旦那の命を狙う“狂骨”が登場し、何故狙われることになったのか、の謎解きもあるのだが・・・判明した理由が悲しい。江戸を舞台にした物語ではあるが、現代にも通ずる問題も盛り込まれる。その中に切なさを禁じえない。
一方、「おせっかい」な長屋のおかみ達から、縁談を勧められる貧乏神や漠の苦悩が面白い。こういう悪気はないけれどお節介な人というのは、いつの世にもいるものなのだろう。生活していると、いろいろと嫌な場面に遭遇することがある。
関係のないことに巻き込まれてしまったり、自分が当事者になったり。気持ちがささくれだってどうしようもない時、私の場合、この本を読むと気持ちが穏やかになれるのだ。こんな面々が自分の周りにいたらさぞ楽しかろうに、と思える。
小さな鬼のやなりは可愛いし、貧乏神であってもよい相談相手になりそうだ。お稲荷様の守り狐も強い味方だし、屏風のぞきや猫又たちも頼もしい。そして何より、仁吉と佐助の兄やたち。ずっと、このまま、皆一緒に、穏やかに続いて欲しい大好きな話である。
(40代女性)
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