読書感想文「ある男(平野啓一郎)」

3平野啓一郎さんの言葉の使い回し、表現力には脱帽させられた。物語の主軸となるのは、タイトルにもあるようにある男なわけだが、そのある男を突き止める主人公、城戸もなかなか興味深い男だった。彼は在日3世であり、彼自身は日本人である意識とともに育ったが、それを客観的に見つめ直すようになる。

 

彼の中の葛藤であったり、自分が何者なのか、もしも他人の人生を歩めるとして、自分はどうするのか。その自問自答や答えのない問いに対する抗いややるせなさ。それらを全て凝縮し、ある男という物語を濃く力強い作品に仕上げていた。 名前を偽り、戸籍を偽り、全く違う人間がいた。その者がその人であると決定づけるのは、過去なのかその人自身の人柄なのか。

 

登場人物の中には、個性的で良い意味でも悪い意味でも影響力を与える人物が沢山出てくる。私が特に気に入ったのは、以下の二人の人物だった。 1人目が小見浦という、ある男こと谷口大佑の戸籍交換に関わった人物である。彼は決して正面から戸籍交換は認めず、むしろ城戸を煽って在日の事を冷やかしてくる。

 

掴み所がなくどこか下品で、それでいて重要な手がかりをチラつかせてくる。彼の言葉は棘があり、何度も城戸をイラつかせるものの、それは核心を突いているのである。その独特な佇まいと、おどろおどろしい雰囲気がとても興味深かった。 そしてもう1人が美涼という女性である。

 

彼女は入れ替わる前の谷口大佑の元恋人で、サバサバとした飾り気のない、美人な女性だった。彼女に対して城戸は好意を寄せるのだが、それが実ることはない。当たり前かもしれないが、そこまでの展開がとても胸を打たれた。美涼は何気なしに城戸に言うのである。「私、好きな人がいたんですよ。

 

でも妻子がいて、不倫はまずいと思って」これらの文脈から城戸であることは明白だけれども、彼女はそこまでで止めてしまった。もちろんそれが正解だ。だがそのぼんやりとした含みのある言葉がとても印象的だった。ある男は登場人物の一つ一つにとても惹きつけられた。

(20代女性)

 

 

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