読書感想文「罪の声(塩田武士)」

昨年呼んだ小説の中で最も印象に残っている本です。私はもともとノンフィクションや実際の事件を題材とした小説や読み物が好きなので、この「罪の声」は自分にとって大ヒット作でした。この作品は昭和末期に起こった「グリコ森永事件」を題材にした作品で、筆者の塩田武さんが「実際の事件はこうだったのではないか?」という推測と予想の元に描かれた作品です。

 

ノンフィクションという体を取りながら、年密な取材と作者の卓越した想像力で限りなく事実に迫った作品ですので、呼んでいる最中も実際に「真犯人を見つけた」という感覚に陥るほどの再現度と手に汗握る展開は圧巻で、物語に入った時の中毒性は過去の小説とは比類できないくらいのインパクトを受けました。

 

私自身「グリコ森永事件」の時は生まれていなかったのもあり、その当時どのような空気感で報道されていたのか肌で感じることはできませんでした。しかし、この小説を読むと当時の事件の影響の大きさや国民や地元の人々が怯え心配する表情まで伝わってくるような臨場感や匂いすら感じさせられます。

 

この本は単に優れた小説というだけでなく、フィクションではありますが、当時おこった重大事件に関する文化的な資料でもあり、事件に関わったすべての人の息遣いまで聞こえてきそうなリアリティはノンフィクションといっても過言ではありません。作者の塩田武さんはもともと新聞記者で大日新聞に勤める主人公同様、新聞社に実際に勤めていた経験があります。

 

ですから、主人公の阿久津の事件へのアプローチが非常にリアルで新聞記者の正確で緻密な調査を投影しているのはさして驚きではないのですが、それでも実際に事件に肉薄していく過程の阿久津の直観力や緊迫感の凄みは、作者の塩田さんが尋常ではない熱量と時間をかけて阿久津を描いたんだなという事が伝わってくるほど、血の滲むような労力をこの小説にかけたんだと感じました。

 

私は人生で数多くの小説を呼んできましたが、物語の素晴らしさ同様、作者がこの作品に「人生をかけた臨んだ」という強い気概を感じた小説はこの作品が初めてかもしれません。

 

「この事件を風化させてはいけない」、「この作品を多くの人に知って欲しい」という筆者の気持ちは、事件に巻き込まれた多くの大人や、卑劣な大人によって幼いながら事件に巻き込まれた子供や弱者への怒りや労いのメッセージを感じますし、それが「罪の声」という作品に憑依し、塩田武さんの魂の叫びそのものが表れたんだと思います。

 

(30代男性)

 

 

罪の声 (講談社文庫)

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