読書感想文「段ボールハウスガール(萱野葵)」

主人公は杏という女性である。2年間の生活費200万円を爪に火を灯すようにして貯め、会社を辞めた矢先に泥棒に根こそぎ盗まれてしまう。そこから杏の浮浪生活が始まる。普通ならお金を盗まれた時点で諦めて何か仕事を探しそうなものだが何故か杏はそうしない。警察官に「盗まれたお金は帰ってこない、諦めろ」と言われたことに腹が立つのだろうか。

 

被害者が泣き寝入りして、本来やりたかったことを諦めるのが悔しいのだろうか。とにかく家賃も払えないのでアパートを出て自分の母校の大学で寝泊まりし、勝手知ったる何とかでシャワーを浴びたり洗濯したり学食を食べたりし始める。食料は他にもハンバーガーショップのゴミ箱を漁るとか、クラブのタダ券を拾ってタダで飲み食いしたり、パーティーに潜り込んで客の1人になりすましてタダ食いしたりと色々だ。

 

私も子供の頃、家出をしようと思った事がある。別に深い理由があるわけではない。多分何かして思いもかけず親に怒られたりした時に、家が窮屈に思えて家の外で暮らせないか考えたのだ。私は田舎に住んでいるので住処はビニールハウスにしようと考えた。起きたら食料を探しに行く。水は公園に行けばあるし子供心に何とかなるのではないかと思ったものだ。

 

杏の行動はまさにそんな感じで色んな知恵を絞ってお金のない生活を渡って行く。その辺は本当に楽しい。舞台は新宿だけれど人間お金が無くても生きていけるのかもと一瞬錯覚する。結局大学は寝ていると人が注意しに来たりするので杏は新宿駅にダンボールハウスを作って住むことになるのだ。解せないのはアルバイトをする事である。

 

食料を探すのに疲れたのか、怪しげなバイトや家庭教師までするようになる。更には自販機にお金を入れたけど出てこないと嘘を言ってお金を返金させたりと、こうなると詐欺である。ほとんど少額だけれど犯罪は犯罪なので子供が読んで真似しなければ良いなぁと思ってしまう。なんというか、この杏という女性は社会的に子供なのだと思う。

 

ただ本当にたくましくて子供の頃みんながそうであったように突き抜けた力強さがある。どうして人は大人になると臆病で弱くなってしまうのだろう。実際は杏のように若い女性が浮浪生活なんてしたら犯罪に巻き込まれる可能性が高い。だから実際にはやらないし、やりたくもない。けれど杏のようなたくましさをいつ自分は失ったのだろうと思うのだ。

 

杏が軽犯罪なんかを冒しても嫌いになれないのは彼女がかつて自分がそうであった子供並のたくましさを発揮しているからだと思う。決してハッピーエンドにはならないから結末は濁してあるけど、杏の生き様は何故かいつまでも心に引っかかって消えない。

 

(50代女性)

 

 

 

段ボールハウスガール

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