読書感想文「田村はまだか(朝倉かすみ)」

「選書サービス」というのに興味を持ち、ネットで検索した時に出てきたひとつが、この本だ。小学校のクラス会の三次会のバーに一人遅れてくる、田村、という男の子を、同級生たちが昔を振り返りながら、ただひたすら待つお話。学生時代に不条理演劇を卒論に選んだ私は、「田村はまだか」というタイトルに、サミュエルベケットの「ゴドーを待ちながら」を連想したのだが、内容は全く違った。

 

まず、田村は最終的に現れる。どんな形かは、読んでの楽しみとなったが…「どうせ小便するからって、おまえ、水、飲まないか?どうせうんこになるからって、おまえ、もの、くわないか?喉、渇かないか?腹、すかないか?水や食い物は小便やうんこになるだけか?」小学校地代の田村の、ある少女に向けたこのセリフを書評で見た時、目の前に現れた少年、田村から自分に言われているようで、どうしてもどうしてもその先を読みたくなった。

 

本を注文してからも、田村という少年の話を一刻も早く見たくて、まさに私も「田村はまだか」状態でこの本迎えた。自分には決してなれない、でもどこかでそんなふうになってみたいと感じる、回想の中の田村の透明感。人間は同じ場所に留まることはできないから、過去の自分と今の自分は全く別の人間のように感じたりする。いまはブログを書くことで、過去の感情や出来事を記録に残す人も多くなった。

 

私も、自分が20年前にネットで書いていた文章を見ると、まるで人の日記を覗き見たかのような他人感を感じる。昔の自分は、今の自分とは細胞の構成からが違うのだと感じ、そして、少しさみしくなる。大人になった同級生たちにとって、田村の存在は、自分たちの当時の純粋だったものの象徴なんじゃないかと感じた。

 

「田村はまだか」という繰り返しのフレーズの楽しさと、読み始めは田村とその他のモブ同級生、というイメージだった彼らの背を、ポン、と叩いて応援したくなる物語だ。一緒に収録されている、「おまえ、井上鏡子だろう」も、ドキドキもワクワクもない、淡々と進む物語だが、妙に印象的でせつない。

 

(40代女性)

 

 

 

田村はまだか (光文社文庫)
朝倉 かすみ
光文社 (2010-11-11)
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