「テッド・バンディ―「アメリカの模範青年」の血塗られた闇」の読書感想文
サイコパスもののサスペンスが日本でもはやりだした昨今、アニメ等でもよく「サイコパス」という単語はまま耳にするようになった。本書の表題にあるテッド・バンディこそもっとも有名なアメリカが生んだ史上最悪クラスのサイコパスのひとりであり、シリアルキラーという単語の由来ともなった強姦連続殺人鬼である。
最低でも30−40人を殺害した彼による余罪は、どれだけあったかもよくわからないという鬼畜生だ。しかも、その殺害した人物はことごとく、バンディのプライドをへし折った初恋の女性と似通った身体的特徴の持ち主・・・センターわけの長いダークカラーヘア、美貌、身持ちの堅い一般人・・・というセンセーショナルなものだ。
そんな彼のリアルな友人であった著者であるアン・ルールがだ、バンディを殺人鬼とはつゆしらず「心優しい友人たる模範青年」と信じ友好をあたためた末に、彼の本性が露呈し、その友情が崩壊する恐怖を淡々とつづったという、ここまで衝撃的なものではなくとも、我々の日常にも十分ありうる内容である。
本書のもっとも恐ろしいところは、あとから事実が発覚すれば「兆候」はあった、と振り返りこそすれど、そんなこともなければ日常の交流の中に埋没し、なんてこともない話と受け流してしまうレベルの奇妙さしか、バンディというスぺシャル級の異常者は筆者にのぞかせなかった、ということである。曰く、筆者のひとなつこい犬がなつかない。
曰く、紳士的なバンディには似つかわしくなく、筆者を急に背後などから驚かすことを好み、その反応を見て喜んだ。曰く、筆者に彼はうそをついているとは感じさせても、それは彼なりの事情があるからだ、と思い直してしまうくらいの社交性・上っ面のよさをもっている。
そんな人物は、長からずとも人生を生きてきていれば、会社でも、アルバイト先でも、学校でも、趣味の交友関係でも、いくらでもいたはずだ。我々の身の回りにも。なんともに皮肉に感じるのは、アンはバンディの行為が明らかになりつつあるときも、当初はバンディを信じようとすることだ。
そしてバンディは、明らかに「アンがそういう人間だとかぎ分けて」交友関係を築いている。ハンターは、餌食とする獲物、利用できる獲物をかぎ分け、それはいつだって心優しい善良な良き友人たる資質を持った・・・社会生活一般を営む上では美点とされるものを備えた人間であるという恐ろしさを再認識する一冊である。
(30代女性)
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