読書感想文「平成くん、さようなら(古市憲寿)」

安楽死を決めた青年、平成くんの物語で、恋人の愛ちゃんの視点から描かれている。サクサク読み進めることができてしまうが、なんだか希薄さを感じた。安楽死をこんなに軽いイメージで描いてよいのか疑問である。また、安楽死の理由は、最初は「平成が終わるから」とかの屁理屈のような感じで、でもじつは平成くんの身体の問題(病気)が原因だったのだが、どちらの理由だとしても共感できる人は少ないのではないかと思う。

 

共感という観点では、宿泊するホテルやレストラン、ファッションブランドなど、ラグジュアリー過ぎてリアリティを感じることができなかった。愛ちゃんは有名な漫画家の娘であり、お父さんが亡くなったあとに著作権を引き継ぎ、あまり働かなくてもかなりハイクラスの生活ができる身分である。やはり浮き世離れしている設定だと感じる。

 

 

 

また、安楽死のテーマとは別に、作者の古市憲寿さんは現代を生きる若者の快適性を求めるライフスタイルを描きたかったそうだが、快適性は経済的に余裕のある人、いわゆる富裕層でないと手に入れられないと思う。平成から新元号の変わろうとしているこの時代にも、昭和に建てられた木造・風呂なし・たたみのアパートに住んでいる人もいるし、どんなにレトルト食品や惣菜がおいしくなっても一番安いものしか買えない人々もたくさんいると思う。

 

どんなに時代が進んでさまざまな物モノやサービスが進化しても、買うお金のない人は機能・性能が劣る一番廉価なものを選び、あるいは時代遅れの旧製品を使い続けるしかできないでしょう。快適性とはほど遠いところで生きるしかできないのだ。こうした点でも現代の若者を捉えているとは言い難いと思う。

 

唯一、共感できたのは、平成くんが去っていた後、愛ちゃんが新しい恋人を見つけ、食べ方が汚いことで嫌な感情を抱くのだが、「でも、きっとこの人と結婚するんだろうな」という思いを感じたシーンである。自分はそうではないが、愛ちゃんのような女性は決して少なくないと思う。

 

また、最後に平成くんのAIが入ったスピーカーの線をぶち抜くシーンではちょっと切なくなった。いろいろと「さよなら平成くん」の欠点を書いてしまったが、何かを感じることができた、何かを考えることができた、という視点では悪い小説ではなかったと思う。軽やかに読み進めることができる文章を書く力も素晴らしい。

 

(50代女性)

 

 

 

 

平成くん、さようなら

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