読書感想文「凍てつく太陽(葉真中顕)」

私自身が長年考え続けてきた諸問題に、この本は一つの回答を提示してくれた。「豊かさ」とは何も物質面や利便性だけを追求した結果、生まれてくるものではないということに。狩猟生活を送る者、農耕生活を営む者、それぞれの民族の歴史やポリシーを重んじ、自然的に生きていくのが理想ではないのか。

 

それについては作中の人物のセリフに作者の考えが投影されていることが、ありありと感じ取れた。国とは、政治とは、まやかしなのだと。それぞれが違った服を着ているようなものだという考え方に、大いに納得させられた。物語的には個性あるキャラが多く、ところどころに伏線が張られていて、重厚なものになっている。

 

 

 

特に主人公の八尋が任務中知り合った朝鮮人のヨンチュン、網走刑務所の獄中で出くわしたカミサマ、特高警察の三影には、同情心が沸き起こった。大日本帝国へ徴収されてきた朝鮮人の苦悩、共産主義に理想を抱いていたロシア人、自己肯定感の圧倒的に低い日本人について、どれも共感する設定が組まれていた。

 

そんなキャラ達に魅了されながら、肝心の事件の犯人については全く予想がつかなかった。この物語は男たちが中心ではない。中心には一人の女がいる。戦時中の日本が舞台でありながら、真犯人とも言える存在が、か弱く武力を持たない一人の女であったことに驚かされた。物語のどんでん返しとしては成功している。

 

鬱蒼とした雰囲気が終始この小説にはあり、それゆえになかなか読み進められない時もあった。呼んでいるこっちまで気が滅入ってしまうからであり、臨場感がそれほど強いのだ。当時の北海道の時局があまりに緻密に書かれており、街が統制下に置かれている様子、その行き詰まり感がよく分かった。

 

キャラ達はそれぞれの最期を遂げるが、主人公の未来には夢を抱かされ、そこが唯一ホッとした点であった。それにしても、戦争の勝敗によって作中人物の立場というものがこうまで反転するものなのかと、これぞ「まやかし」なのではないかと、深く考えさせられてしまった。

 

(30代女性)

 

 

 

 

凍てつく太陽

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