読書感想文「冷静と情熱のあいだ―Blu(辻仁成)」

この作品は辻仁成・江國香織の2人の作家が、2人の主人公の心情を交互に綴るという形式で連載された小説だ自分は恋愛小説をあまり読む方ではない。というのも、人気のある恋愛小説の多くは10代の主人公を配置したものが多く、青春を過ぎてしまった自分自身と照らし合わせると清廉な少年少女はまぶしすぎて感情移入しづらいと感じるきらいがあった。しかし、知人に勧められて手にしたこの小説にはどっぷりと感情移入してしまった。

 

それほど、異色ながらも魅力的な作品に感じた。本作は30歳を手前にした男女を主人公としており、大学時代に交際していた2人が別れ、それぞれに幸せな生活を過ごしていたが10年前に交わした約束を思い出し、再会に向けて動き出す、というものである。2人が別れ、進みだした別々の道、取り組んできた仕事、それぞれが出会った新しいパートナー。これらの要素が10年という奥行きの中で重なり合い、2人の主人公の幸せな暮らしを支えてきた一方、10年前の約束が忘れられずに再会をしようとする決断への足枷ともなってしまう。

 

 

恋愛の成就を切に願うことはどの年代にも当てはまることだろうが、若者の恋愛とはまた違った人生観、長く付き合った新しいパートナーへの情、仕事への責任感といった大人ならではの要因が、ストーリーを複雑にしている。なにより私が面白いと感じるのは、主人公たちが不運な状況にいて、それを打破するために行動するわけでもなく、困難な状況を力を合わせて乗り越えるわけでもなく、それなりに幸せな状況にいながら、個々の在り方に疑問を抱きながら再開へと動いていく点である。

 

安寧な生活をし、周囲から見れば静かで幸せに暮らしているように見えても、10年前の約束をきっかけに小さな心の揺らぎやわだかまりが生じ、2人が直接関わり合うことなくおのおのの人生を見つめ直していく様は、恋愛だけにとどまらない生活全体への反省を促す。また日本人の主人公を置いていながら、舞台をイタリアといしているのも、ストーリーをより魅力的にしているだろう。

 

様々な国籍、文化的背景を持った人物たちがおのおのの信条に基づき行動する様からは闊達な印象を受けるが、その反面、日本での過去の思い出にも、イタリアでの現在の人間関係にも縛られる主人公たちの不自由さをより色濃く映し出しているようにも見える。

 

(20代男性)

 

 

 

 

冷静と情熱のあいだ―Blu (角川文庫)
辻 仁成
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