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読書感想文「狭小邸宅(新庄耕)」

この小説の主人公は不動産営業に従事する、若手社員である。都内の有名私立大学を卒業しつつも就職活動に失敗し、行き場がないがゆえに、学歴、職歴不問の不動産業界に入ったという消極的な人物で、不動産には何の思い入れも持っていない。そんな平凡な人物が、不動産営業で苦しむ様子が、これでもか、というリアルさで小説内では描かれている。小説内で描かれるのは、売れる営業マンが正義、売れない営業マンには何の価値もない、という完全な弱肉強食の世界である。ある体育会系の新人営業マンが、売れないがゆえに支店内でイジメられ、看板を持って駅前で販促活動を強いられる過酷な様子が、詳しく描かれている。そして、「売れない」主人公は徐々に追い詰めれ、別の支店へと転勤させられてしまう。でも、追い詰められた彼は、最後の1ヶ月間と自分で定めた期間に、同僚の誰も売ることができなかった特殊物件を、ある偶然によって売ることに成功する。
[google-ads] そこから、少しずつ変化が訪れる。物語の終盤になると、彼は、売ることができる人物へ変化する。そのターニングポイントはある課長との出会いにあり、課長から、営業マンとして必要な要素について叩き込まれるのだ。たとえば、その一つが、「営業車にのっている時にアクセルを緩めるな」というもの。ブレーキを踏むことは自信の無い現われだと、教えられるのだ。このエピソードはおそらく、実話に基づくもので、このような現実的な話が多く盛り込まれているので、リアルな緊張感を持ちながら、怖いものを見ているような感じで、過酷な不動産営業の状況を垣間見ることができる。ただ、この小説は過酷な状況だけが描かれているのだけではない。売れなかった人物が、売れる人物へ変わる過程も描かれており、主人公の成長物語として詠む事もできる。そして、都内における不動産の実情(一般庶民がどんなに頑張っても、普通の一戸建てを買うことは不可能であること)も紹介されており、物語だけではなく、不動産に関する知識を深めることにも役に立った。この小説は、過酷な不動産営業の実情を描いているので、過酷な労働内容を取り扱った現代版の『蟹工船』と捉えることも可能である。でも、作者本人は不動産営業の価値を否定的には描いておらず、不動産業の不毛さを強調しようともしていない。その点において、脱イデオロギー的で、『蟹工船』よりも幅広い読者層に受け入れられる作品となっている。
 
(40代男性)
 
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