最近読んで感銘を受けた小説は花村萬月さんの「惜春」です。とあるネットの記事で爪切男さんの「死にたい夜にかぎって」が話題になっていて、そこで書店員さんがお勧めする中年男性に響く小説特集の中にこの本があり、興味があって読んだのがきっかけです。小説をジャンル分けするのはそれほど好まない人間ですが、無理やりジャンルを当てはめれば青春小説になると思います。自分の青春とは似ても似つかない内容だったのですが、主人公の真っ直ぐで淀みない性格が自分が学生時代のどこか懐かしい感情を覚えさせてくれて、なんとも言えない感情に浸らせてくれます。この本は、歌舞伎町のキャッチバーで働いていた童貞の主人公がお客さんの上手い話に騙されて、雄琴のソープで働かされるという話です。扱っている題材を見れば、なんとも色気のあるエロティックな話になりがちですが、読み終わった後は不思議と爽やかな余韻に浸れる小説になっています。その要因は主人公の実直で汚れのない真っ直ぐな性格と花村萬月さんの巧みな筆力に尽きると思います。
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主人公の佐山は「京都で働かないか?」という言葉を鵜呑みにし、風俗のボーイとして雄琴で理不尽に毎日働くのですが、そこで働く「トルコ嬢」と言われるソープ嬢たちと優しく純朴な佐山の交流はこの本の最大の見所です。雄琴のソープで働く女性達には何らかの事情があり、特にお店のNO1ソープ嬢である吹雪さんと佐山の接近は印象に残りました。一見風俗嬢には見えない美しさを持つ吹雪さんは、男勝りな過激な性格を持ちお店のボーイ達も手を焼く存在ですが、佐山のことを何故か気に入ります。連日主人公佐山を奴隷のように扱う吹雪ですが、とある日の休日に佐山と京都に出かけたシーンは特に印象に残りました。ラーメンを食べたりお寺を見たりと京都散策に疲れた佐山を見て、吹雪は「ちょっと休んで行くか?」と佐山をホテルに誘います。そこで主人公佐山が童貞あるがゆえの見栄や戸惑いを見せた時の、「そっか、私汚いもんな、ごめんな佐山」という吹雪の言葉が心に焼きつきました。風俗嬢=汚れた女という印象は確かにありますが、世の中の何が汚れていて、不純なのかというのは明確に定義できるモノではありません。少なくとも純粋で童貞の主人公とトルコ嬢のこの会話から、煩いの多い現代社会で生きるうえで考えさせられることは多いなと実感しました。自分の単調な人生とはかけ離れた題材を、ここまで切迫した万人に響くような小説に仕上げた花村萬月さんの筆力やリアリティはさすがの一言で、この「惜春」は人生の大事な転換期でまた読み返したい「心の友」とも言える一冊になったと思います
(20代男性)
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