読書感想文「愛のゆくえ(リチャード・ブローティガン)」

すごく概念的な話だと思う。あるところに思い深く書かれた本だけが保管される図書館があり、そこに主人公である「私」が住み込みで働いている、という設定からしてもう概念的だ。終始「私」の視点で話が進んでゆくのだが、ある日ヴァイダという絶世の美女が図書館にやってくる。主人公は一目で彼女に恋し、彼女も彼に恋をする。現実ではなかなかありえない展開である。そしてしばらく二人で楽しく暮らすのだが、ヴァイダが妊娠してしまい、堕胎を決意することになる。この堕胎決意までのスピードがまたものすごく早い。そんな簡単に決めていいのか、と思わず二人に問い詰めたくなる。最終的に主人公と恋人は堕胎を難なく成功させて帰ってくるのだが、その時には図書館を別の人間に乗っ取られているのだ。主人公は敢え無く、長年過ごしていた自分の城とも言うべき図書館から出ていかなければならない羽目に陥る。急展開だ。しばしば概念、という言葉を使ったけど、この話は要はファンタジーなのだろう。この図書館はそもそも、主人公の心の殻の見立てなのだと私は感じた。壁を作り、引きこもり、自分の求める思い入れの深いものしか手に取らない生活には変化がない。だけどその生活にも否応無く心動かされるものはあり、それに気づいたが最後、状況は劇的に変わってしまう。つまり別のものに興味を持ったら、人は閉じこもっている殻から強制的に旅立つ時がくる、というようなことを人に見立てて書いているのだと思う。この作品は恋愛小説としても読めるが、それはこの作品の持つ一面にしか過ぎないと思う。ヴァイダは主人公が外に出るきっかけの役割を持っているだけなのだ。その証拠に特段、ヴァイダ自身の言葉が主人公の救いになったりという描写は出てこない。焦らなくても、いつか必ず心を動かされるものとの出会いが来る。どうせその時が来たら旅立たなくてはならないのだから、「図書館」にいたい時はいればいい。私はこの作品から、そういうエールを感じた。

(20代女性)

 

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