読書感想文「津軽殺人事件(内田康夫)」

冒頭から太宰治直筆の肖像画の話などが出てくるため、津軽を舞台とした旅情ミステリーかと思いきや、社会派ミステリーでもあり、ちょっと酸っぱい恋愛もありの贅沢な小説であった。浅見光彦シリーズではかなり高確率で事件に絡む女性と浅見が恋に落ちるか落ちないかが描かれているが、色々読んだ中ではこの作品の石井靖子が一番浅見に合っているような気がする。事件の推理より、浅見、浅見の親友村上、靖子との微妙な三角関係の方が気になってしまった。

 

ドキッとするような恋愛ではなく、靖子と浅見の間には、家で温かいお味噌汁を用意して待っていてくれる人、という家庭的なぬくもりを伴った関係だったし、村上の存在がなかったら、浅見はもう少し大胆な行動に出ることもできたのではないか。靖子はどう考えても浅見に興味がある感じなのに対し、浅見は好意があるのに村上の存在がブレーキになって、気持ちをうっかり小出しにしては引いてしまうため、非常にやきもきした。

 

 

 

実際自分が靖子の立場だったら、おそらく両想い確実なのに、特に好意があるわけでもない友人男性に遠慮して思い人が去ってしまうのはやりきれない。浅見が友人を裏切ってまで恋愛や結婚に執着がない事も起因していたのだろうが、もう少し女性側の意志を尊重してほしいと思った。靖子については父親が殺害されるという悲しい現実、それに伴う進路の変更を余儀なくされたにもかかわらず、気丈かつ冷静に父の稼業を切り盛りしている姿がたくましく、理想の女性像を感じた。

 

謎解きは、まさかこんなところに因果があったとはと思うほど背後に根深いものがあり、著者の内田氏は相当津軽地方を綿密に取材されたのだろうとひたすら感心した。まるで現場を訪れたかのような描写に引き込まれた。そして、津軽地方から上京して活躍する人たちの心理などが太宰を代表に描かれている点は、土地柄というか県民性のようなものを知る上でも興味深かった。ミステリーの部分を楽しむだけではなく、文化的な部分で津軽地方を知る上でも、とても勉強になる一冊である。

 

(40代女性)

 

 

 

 

 

 

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