読書感想文「嘘を愛する女(岡部えつ)」

交際している彼は信頼のおける勤務先で働いていて、同棲していて、完全に信用しきっていて。そろそろ親にも紹介して次のステップへと思い結婚を切り出したとき彼が乗り気ではなくてスムーズにいかなくて。私との結婚が嫌なのか。周りがどんどん結婚していく年齢の私は共感でき、物語にどんどんのめり込んでいった。よくあるカップルの話。かと思ったら違っていた。彼の全てが嘘だった。名前も、職業もなにもかも。私は誰と付き合っていたんだろう。もし実際に私の彼氏も嘘で固められた「架空」の人物だと考えたら。ぞっとする。ちょっとした不審な点なんて日常茶飯事だから、いちいち問いただしたりしないけど、そうやって積み重なった引っかかる点が、全ての嘘に繋がるとしたら。真実が知りたいと私も思い、由加里と同じように調べてしまうだろう。だけどどこかでまだ信じている。私を愛してくれている彼は本物だと。傷つくと分かっていても彼の過去は知りたいし、彼の全てが知りたい。本当に愛しているから、どんな彼でも受け入れられる気がするけど、彼の名前まで嘘だとしたら。怖くて仕方ない。どうして彼はそこまで嘘で固めて生きていたのか。苦しくなかったか。せめて私には本当のことを打ち明けてほしかった。こんな形で彼の真実を知りたくないと思う。浮気疑惑で探偵を雇うのとは訳が違っていて、探偵と一緒に調べていく彼は私の知らない彼氏。何も知らなかったということと架空の彼を愛していたという現実を突きつけられても、真剣に彼と向き合おうとする由香里は逞しいなと思った。人生で一度も嘘をついたことがないなんて人はほぼ存在しないと思うし、自分を守るためだけの悪い嘘もあれば、相手のためにつく嘘だってある。小さな嘘から、一瞬にして信頼を大きく崩壊させてしまう嘘など、日常にはいくつもの嘘が蔓延していて、他人のつく嘘に傷付けられた経験もあるけど。こんなにも人生を変えてしまう嘘に出会ってしまったら私は二度と人を信用することができないと思う。愛している彼のことは最初から真実が知りたいと心から思った。例えどんな理由があっても。
 
(20代女性)
 


 

 
 
長澤まさみと高橋一生のキャスティング映画の小説ということがきっかけで読んだが、もしかすると自分にも起こりえる、あるいはもう既に起こってしまっているかもしれない状況だというのが一番の感想だ。メインキャラクターのようなキャリアウーマンと研修医、という組み合わせではないにしろ、世の中の未婚・既婚のカップルのうち、果たしてお互いの真実を知り尽くしているような関係性というのはあるだろうか、いや無いだろう。真実を隠す者、真実から目をそらす者、虚像を信じていく者、虚像を疑う者、理想の姿を演じる者、皆それぞれに生きていく上での仮の姿というのがあるのではないだろうか。一時は真実の愛を誓ったとしても、その時ですがお互いの心の中は決して見ることができず、心もまた変化し続けていくものである。そんな、繊細で生身の感情を持つ2人の人間が、相手の何を見つめて、自分の何を信じて、誰のために何のために生きて、関係を維持していくのだろうかということを考えさせられる作品だった。そして、本作のように連れ添った相手の真実が丸裸になることに直面する人もまた多くはなく、仮に真実が見えてしまった時に、人がどのようにして相手と向き合い、相手を受け入れて、変化の訪れた自分さえも受け入れて、前に進んでいくのか、進めずに終わりを迎えるのか、自分であればどんな選択ができるのかを真剣に考えてしまった。きっと何を選んでも、人は柔軟に生きてはいけるし、それなりに生活が待っているものだ。ただし、一組のカップルという視点で言えば、関係を継続しなければそこで終焉を迎える。愛の定義はさまざまで、愛の価値もまた人それぞれで、決まった幸せの形というのはありそうで実は無いのかもしれない。そんな、実はとてもあやふやで脆い2人の関係を、挑戦と捉えるのか不安と捉えるのか、本当の愛とはどこにあるのか、自分に置き換えて考える機会を与えてくれる、そんな一冊だと感じた。
 
(30代女性)
 
 
 
 

 

 

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