読書感想文「蜜姫村(乾ルカ)」

「蜜姫村」のタイトル通り、現実の日本には存在しない、異世界を思わせる村の物語だった。幼女が「きはち…」と誰かを探す冒頭が、ふわふわとファンタジックで、同時にどこか不安定さを孕む情景に、私は既視感を覚えた。「佐々木丸美だ」と気付いて確認したら、乾ルカも佐々木丸美も北海道出身だった。二人のファンタジックで透明感ある世界は、冷え冷えと澄みきった北の大地に育まれた感性なのだろうか。
 
だが、佐々木丸美があくまで美しいファンタジックな世界であるのに対し、乾ルカはこれでもかという程に醜悪さや歪さを描きだす。しかしそれが醜悪や歪なままで終わらず、まるで絵画のように一種のバランスを保っている。都会から移り住んだ女医が、蜜姫村の年老いた村人たちの不自然な元気さ、明らかに死に瀕しているのに翌日には回復している患者を不審に思う。ある日死にかけた娘を助ける為に、禁忌である村の秘密を探り出す。
 

 
 
小さな村ののどかさと不自然さに居心地の悪さを感じる情景の後、蜜姫の住む立派な一角とそこに潜む暗い秘密が語られる。女医は娘の命を助けてもらうのと引き換えに、自分の体を蜜姫村の秘密の為に差し出す。秘密の為に尽くしてしまった後、女医は最期を迎える。「ヒト」ではなくなった女医に娘の記憶はない。命を落とした女医の体は原型すら留めていなかった。悲惨な死であったが、女医は己の運命を強い選択をもって受け入れたであろう姿だった。
 
獣の咆哮をあげながら裂けていく女医は、「ヒト」でなくなりながら、しかし母親だった。大地に根差した原初の女神を思わせた。残った娘は蜜姫村で美しく成長し恋をするが、村に縛り付けられた役目に苦悩する。結局娘は恋人と蜜姫村を出奔し、二人の間にできた子を苦労して育てる人生を歩む。
 
この物語には、主な女性が4人登場する。蜜姫、女医、女医の娘、娘の子供である。4人の中では女医の娘が最もはかなげで頼りなげだ。母となってもまだ頼りなげで、隣に住む女性がなにくれとなく世話を焼いたりするのだ。本作でこの娘が中心に語られるにも関わらず、残念ながら私には印象が薄い。私の感想としては、蜜姫と女医が好きだ。どちらも逞しく、迷いがない。
 
蜜姫はどちらかといえば憎まれ役になるのだろうが、善も悪も全て身に引き受ける潔さがいい。蜜姫を一気に好きになったのが、蜜姫の最期である。娘を追って見つけた蜜姫は、結局娘を蜜姫村に連れ帰ることが叶わず、海岸の波打ち際で絶命する。のけぞり、よじり、膨れ上がった体が内側から裂ける。その姿を今上った朝日が燦然と照らし出す。たまらなくおぞましいのに、何故か蜜姫の壮絶な死が鮮烈に刻まれるのだ。女医と同じく蜜姫もその運命に強く立ち向かってきたのだと思った。
 
(50代女性)
 
 
 

 

 

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