読書感想文「香水―ある人殺しの物語(パトリック・ジュースキント)」

この作品を読んで、たびたびグルヌイユに自身を重ね、恍惚とした気分に陥ることがあった。グルヌイユは唯一無二の嗅覚をもって、驚くような所業を行うが、明らかにそれは私にできないことだったからである。愛されぬ子であり、死にかけることも多々あるにも関わらず、最終的には自身に神の匂いをつけることに成功する。
 
そこから、私は「こんな風にして全人類から愛されてみたい」「周りの人に跪かれたい」という欲を満たすことができたのだろう。そして、私がこの作中でなにより好きなポイントが、洞穴の空想シーンである。グルヌイユが夢の中で、誰にも侵されない唯一の匂いの王国を作り上げるシーンは、グルヌイユが才能の塊であることをひしひしと感じる。
 

 
またそこから、私はグルヌイユの立場に自分を立たせ、優越感に浸ることができた。次に好きなシーンが、伯爵が自身の成功を確信し、自信で満たされるシーンである。伯爵の行う行動自体が興味深いのもあるが、強烈な思い込みで体調を改善させるといった人間性も、優秀な人物ではあるが欠点もあることを示しているからである。そしてそんな優秀な伯爵さえも、グルヌイユは匂いで操ってしまう。これは一種の下克上にも感じられる。
 
その次に好きなシーンは、グルヌイユがついに人間の匂いを作り出すシーンだ。材料も大雑把ではあるが書かれているため、信憑性を感じて背筋が冷える。その材料からうかがえる通り、人間そのものの匂いはとてつもなく臭いらしい。文面からもグルヌイユが軽蔑している姿が見えるため、つい読書中に自分自身の匂いが気になってしまうのだ。
 
グルヌイユが人間の匂いをつけ、人混みで試すシーンも、はじめは恐る恐るとしていたグルヌイユが、だんだん人間への感情を嫌悪から軽蔑へ変えていく様子が、もうグルヌイユに敵う人物がいないことを感じさせる。また、私も敵がいなくなったように感じて、嬉しくなった。クライマックスでは神以上の存在となったグルヌイユの待ちに待った復讐の時間を見ることができる。
 
私が途中から望んでいたのは、底辺でもあった者の最上級層への下克上でもあったため、かぶりつくように読んでしまった。まさに世界人類すべてが手のひらの上にあるといった有様に、私はひどく興奮した。しかし、グルヌイユは虚無を感じてしまう。私は読み終わった後に「もっとグルヌイユの復讐劇を見ていたかった」と思ったが、もしあそこで虚無を感じることなく、本当に世界を掌握したのだとしたら、私はグルヌイユに対しての憧憬を拭うことができなかっただろう。
 
あえて最後にすべてを放棄したからこそ、私はグルヌイユに対して哀れみに近いものをもつことができたのだろうと思う。この作品は読者を恍惚とさせ、興奮とさせる。しかし、ちゃんと最後には「わたし」とグルヌイユが違う存在であることを示し、現実に帰らせてくれるのだ。
 
(10代女性)
 
 
 

 

 

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