読書感想文「あなたを選んでくれるもの(ミランダ・ジュライ)」

本作で描かれているのは日本でいうところの「メルカリ」のアメリカ版(媒体はフリーペーパー、写真付きではない)の出品者である。著者が心を魅かれた出品者・出品物のところへ自らカメラを持って取材に出向くのだ。そこで出会う人々はみんな社会の一線からこぼれ落ちた人々ばかり。生活保護で暮らす性転換者の初老の女性(男性)の出品はくたびれた皮ジャケット。

 

彼らは出品した物の思い出を切り口に自分の人生を語り出す。ジュライはなぜ底辺へ転がり落ちた人に興味を持つのか、初めは疑問だった。自身の映画脚本に行き詰っての行動だったようだが、観点は面白いが取材には危険が伴う。自分の身近に存在しない人に関心を持つ事は私はあまりないが、創作する人は見知らぬ世界に足を踏み込む欲求を抑えられないのだろう。

 

その創作する人の探求心に私は驚かされた。ジュライは訪れた家で手製のデザートを勧められ戸惑い、断り切れずに持ち帰り途中でゴミ箱に捨ててしまう。著者とここで知り合う人々の間には明らかな境界線がある。その境界線は読んでいる私にも居心地の悪さを伝えてくる。でも人と知り合う為にはそこを乗り越えなくてはならない。

 

 

 

そんな勇気を著者の行動にみた。気鋭のクリエーターのジュライが片隅でひっそり暮らす人間のところへ乗り込んで来た事に、彼らは劣等感を持たないのか?と思った。でもそれは杞憂であった。彼らは十分幸せであり、自分の生活をみせる事、語る事を恥とは思っていないのだ。

 

それが私をこの小説に夢中にさせた最大の理由だ。人々が幸せにしている小説を私は読みたい。人生に不満足な人より充足感を持って生きる人を私は好む。誰もが自分を語りたいという欲求を持っているわけではない。それを持っている人は魅力的である。幸せの形はひとつじゃないという事も改めて感じた作品だった。

 

この小説に出てくる人々はいろいろ上手くいかないなりに自分の居場所をみつける。その過程は苦しかったであろうけど、続けた事でいまがあるのだ。

 

(40代女性)

 

 

 

 

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