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読書感想文「紫大納言(坂口安吾)」

欲望をも超越する純真がある。大納言の欲にまみれた生き方は、ある意味とても人間らしく、汚らしく、醜い。人を騙してまで自分の欲、性的な欲であり女性を手に入れると言う物欲、を達成する自分をなんら恥じてなどいないあたりが、大納言は潔いのかもしれない。たった一人の女性との出会いで、それが見事に覆る。
 
大納言はその女性に対しても、容赦なく自分の欲を果たした。それまでと違うのは、果たした後に、自責の念にかられることだ。何故、彼はその女性に対してのみそのような気持ちになったのか。それが大変興味深い。女性は、月の住人である。月の姫の侍従である。だからなのか、大納言が出会ったことのないくらいの絶世の美女だった。
 
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美女だから、大納言の意識が変わったのか。私はそうは思わない。彼はきっと、その時初めて、「恋」をしたのだと思う。美しく気高い彼女に、自分の欲望のままをぶつけてしまった。そして、輝く月のような冷たい目をされた。それが、「恋」をした大納言には、とてつもなく辛かったのだと思う。
 
女性と男性の行き着く果てはたいてい結ばれるかどうか、であるが、大納言は出会ったその日に契りを交わしてしまった。一方的ではあったが、彼女を「手に入れた」。しかし、満足しなかった。満足どころか後悔した。それが、私が「大納言は恋をしたのだ」と思うゆえんだ。
 
恋に終わりはない。心は移り変わるものであり、一生を誓ってもそれが守られないこともある。愛し合った相手であれば、話し合うだとかそういうやり取りで心の行き違いを認識することもできるだろう。しかし、大納言は自分勝手だった。どうしてもすぐに月に帰りたいのだと言う彼女の気持ちより、彼女の体を手に入れることを優先した。
 
そうして彼女に、徹底的な拒絶をされた。思い、と言うことを、大納言はそれまで考えたことがなかったのかもしれない。愛する人、大事な人のためになにかすること、そういう人を傷つけないためにどうしたらいいのか考える事、そんなこともしたことがなかったのだろう。
 
大納言の最期は、とても彼らしい。彼女を失って、つまりは、初めて愛した人を失って、自分の世界そのものを失って、そして彼も失われる。私はこの小説がとても好きだ。切なくて、悲しくて、愛おしいから。
 
(40代女性)
 
 
 
 

紫大納言
紫大納言

posted with amazlet at 19.01.03
(2012-09-13)

 
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