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読書感想文「山の人生(柳田国男)」

この本の冒頭の一文「30年あまり前、世間のひどく不景気であったときに・・・」から実際にあった、親が子供を鉞で殺してしまった事件の紹介からはじまるのですが、その一文、「小屋の口いっぱいに夕日がさしていた」と情景をまざまざと思い起こさせる文章と、その事件にどんな情景があるのか、とても力強い書き出しで何度も読み返した作品である。
 
秋の末、夕日が差し込む情景の中で、その親子にどんな感情が生まれたのか山の中という環境が持つ魔力のようなものを感じずにはいられなかった。その後も様々な実例を出して、現在の社会では考えられないようなこと、空想でしかないような事件が、実際に過去には起こり、人間が社会から恐らくは自ら離れて、たった一人で存在することに対するなんとも言えない恐怖や、共感、虚しさを私は考えさせられた。
 
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物語というよりは、作者の山という特殊な空間に対する考え方、人間社会においての、多数者ではない者たち、マイノリティーに属する人たちの存在に興味を引き付けられる内容で、文中では、サンカやマタギ、山人、山姥なども山との関係の深い題材も多く紹介されています。
 
今では、起こりえないと思われる「神隠し」などもその当時の人々にとってはいわば常識にあたる部分であり、オカルト的ではありますが、この世に存在するか或いはしないかということは、科学のみによって立証されるわけではなく人々のもつ心情や共有する「こころ」の在り方で、実現していたり、していなかったりするのではと感じた。
 
私の実例ですが、以前、祖母から狸に化かされるといった話を聞いた事があります。孫を怖がらせようとしたのではなく、実際に現実に起こった話として話してくれたのを、今でも覚えている。そこは、今では無人島ですが、祖母がいた当時は20名程度は住んでいたのではないかと思われます。
 
私もそこで畑の作業などしていたのですが、確かに自然の持つ偉大さ、それに対する恐怖、特に夜になると祖母の言ったように狸にというのもごく自然に信じられます。そういった日常からはなれた部分での人間の心の動き、疑問を心の奥底でもっていたのでしょう。
 
その疑問に対する作者の考察や実際の事例を読むにあたって、ただ面白いだけでなく、恐怖や、いわゆるロマンといった感情が引き起こされ、不思議な心の浮遊感を感じるのだ。自分のルーツや、日本の成り立ちなどにも想いを馳せることができ何度も読み返したくなる作品である。
 
(40代男性)
 
 
 
 

山の人生
山の人生

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(2013-10-21)

 
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