読書感想文「反社会品(久坂部羊)」

先送りにされている、医療に関する問題を考えるきっかけとなった。いや、思い出したというほうが正しい。この小説は、近未来の日本に必ず起こるであろう医療に関する問題をテーマにした短編集だ。そのなかに、「出生前診断」をテーマにしているものがある。「命の選別をしていいのか」と問題になっている。
 
これには、看護学生だったときの実習で出会った患者を思い出してしまった。産婦人科実習でのこと。内診を終えて、患者(妊婦)は医師と問診を行う。1人の妊婦が医師に、「出生前診断って、どれくらいお金がかかりますか?」と質問した。医師は、「ウチでは8万円くらいかな。なんで?受けたいの?」妊婦は、できたらやってみたいと答えた。
 
出生前診断で、胎児に障がいがあるかどうかが、高確率で分かるというもの。それを受けてみたいということだった。それに対して医師は、「受けてもいいよ。今はかなり安全にできるようになっているから、100%大丈夫とはいえないけど、胎児に危険は少なくなってるからね。
 

 
 
ただし、障がいがあるって結果が出たらどうするの?産む?産まない?それを決めておいてからじゃないと、検査は受けられないから」と。妊婦は呆然としていた。「え?障がいがあるって分かったらどうするか、ですか。いえ、ただ上の子が障がいがあるんです。それ、遺伝する可能性がある障がいだから。だから、検査を受けてみたいなって、軽く考えてただけなんです」
 
医師は冷静に言葉を続けた。「もう妊娠週がギリギリなんだよ。これ法律で決まっていて、妊娠22週を過ぎると中絶したくても出来なくなるから。もう、あなたはギリギリなんだよね、検査をして、もし中絶するとなったら、日にちがないんだよ。だから、明日の午前中までに、中絶するか産むかを決めて、それから検査だね。
 
明日の午前中までに電話してね」妊婦は、「はい、分かりました」と小さな声で答えて帰っていった。あの人はどういう答えを出したんだろう。あの妊婦はただ、検査を受けて「健常児だ」と安心したかっただけのはずだ。その保障がほしかったんだ。もしかして障がいがあるなんて、これっぽっちも考えていなかった。
 
それなのに、医師の冷静な言葉。もし障がいがあると結果が出た場合、その子を産んだら、障害児2人を育てていかなくてはならない。それはおそらく、きつい仕事になるだろう。それを避けるために中絶を選んだとして、誰がこの人を責められるだろう。反対に、検査の結果は100%正しいわけではない。
 
もしかしたら、異常ありと出ても、実は産まれてみたら健常児だったという可能性だってあるわけだ。結果を信じて中絶することは、命を殺してしまうことになるとも言える。私には、まだこの問題の正しい答えが分からないままだ。この先、答えが見つかるとも思えない。だけど、考えることはできる。誰でも。
 
この小説には、働けない人間は、人間の屑なのか、超超超高齢社会になったとしたら、ドナー提供についてなど、あまり考えたくないことを見せつけてくる。読後は胃をつかまれたような、重苦しい気分になる。だけど、読んでよかったと思える。見たくない近未来は、実はもうすぐそこにある。
 
いつまでも見ないふりはできないんだ。とにかく、考える。これを避けていたら、小説の通りになってしまう。
 
(40代女性)
 
 
 
 

反社会品
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