読書感想文「泳ぐのに、安全でも適切でもありません(江國香織)」

私たちの人生は、生きていくのに安全でもなければ、適切でもない。それでも、もちろん生きていく。それぞれ、オリジナルなやり方で。そんな単純で当たり前なことを、思い出させてくれる短編集。冒頭から、ぐっと胸を掴まれるような丁寧な描写に、私は自分が今、どこにいるのか分からなくなってしまう。
 
まるで自分が、ろくに働かずごろごろしている男を抱え、 マックへ寄って、93歳になる祖母の下に向かっているような気分になる。主人公が感じるイライラや、安らぎ、迷いにあきらめ。毎日、私が感じていることではないか。これを感じない女性はいないと思う。私には、家でごろごろしている男はいないし、もう祖母達はとっくに亡くなってしまったけれど。
 

 
 
それでも強烈に、「同じだ」と感じてしまう。「からすとんび」なんて、いい合わなくても。そうなのだ。若くたって、歳をとっていたって、結婚していたって、子供がいたって、独身だって、そんな事は実は何にも関係ない。それぞれの人生は常に孤独で、1人で進んでいくほかないのだから。 そのやり方は、人それぞれだったにしても。
 
私たちは、すぐそんな当たり前のことを忘れてしまう。そして、比較して思い煩う。けれど、真実はいつもシンプルなのだ。この小説の登場人物たちは、みんなそれをごく自然に知っているように感じる。人は皆、孤独で自由。だからか、彼らの輪郭は1人ずつくっきりしており、それぞれがはっきりと魅力的なのだろう。
 
作者本人の生き方と重なる部分もあるのかもしれない。江國さんの作品の登場人物たちは、いつも皆そうだから。安全でもなければ、適切でもない人生。暖かくはないし、帰ってきてもない。とっても孤独な気分なのだけれど、だからこその自由、清々しさ。この小説を読むと、私は自分が自由であることを強く感じる。
 
孤独であることと同時に。そして、自分なりのやり方で、この人生を泳いでいこうと決意する。ジャバジャバと音をたてて。
 
(30代女性)
 
 
 

泳ぐのに、安全でも適切でもありません (集英社文庫)
江國 香織
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