読書感想文「愛の国(中山可穂)」

中山可穂の最大の特徴でもある女性同士の恋愛小説だが、この作品は舞台が同性愛が迫害されるファシスト国家になってしまった日本である。前作『天使の骨』にて運命的な出会いを果たした王寺ミチルと稲葉久美子。演劇と恋愛という二つの絆で結ばれた二人のあまりにも悲劇的な愛の物語を軸として、前作にも増して、いや、前作以上に肉体的、精神的に過酷なミチルの魂の巡礼が描かれている。

 

同性愛が禁じられ迫害されるこの時代の日本では文字通り命がけであり、久美子を心の底から愛していながらも、劇作家と女優という立場を決して超えようとはせず、ひたすら不器用にしか愛することのできないミチルがもどかしくて、もの悲しくて仕方ない。

 

 

 

また、久美子もミチルを愛していながら、その身を案じたミチルの提案によって、盟友・姫野トオルと婚約し身ごもるが、ミチルへの報われない愛に苛まれ自ら死を選んでしまうシーンはあまりに重く、二人の純愛はこのような結末しか迎えられなかったのかと思うと、何度読み返しても心が重くなるシーンである。

 

稀代の女たらし・王寺ミチルの愛の物語3部作の最終作であり、3部作の中でも最も純度の高い作品だと思う。ミチルが記憶を失い、放浪を続けるうちに次第に記憶を取り戻していく様子は正に魂の巡礼であり、記憶を失っても放浪先で出会う女性達と次々と関係を持つのはこのシリーズの真骨頂でもある。

 

この作者の作品の特徴は、一度読み始めたら止められず一気に読み進めてしまうのが一つの特徴でもあるが、この作品はその極みではないだろうか。国家による迫害から逃れるため四国からスペインへと巡礼を続けるミチルが少しずつ記憶を取り戻し、久美子と過ごした日々が蘇るにつれ、罪の意識にも苛まれるようにもなるが、これまでの2部作でミチルの不器用さを知っており、またその魅力の虜にされた者としては、どうしてもミチルを責める気になれない。

 

ミチルと久美子、心の底から愛し合いながらも報われなかった二人。二人が出会ったのは悲劇でしかなかったのか。芝居の神様に人身御供となったのはミチルではなく久美子であった、いや、久美子が自らミチルの身代わりとなったのか。残念ながら死神に対しては全くの片思いで、いつも三途の川の手前で追い返されるミチル。三度死の淵からひょっこり出戻ってきてほしいと、ファンは願うばかりである。

 

(20代女性)

 

 

 

 

愛の国 (角川文庫)

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