幼馴染だった男女の切ない別れと再会を中心に、必殺剣を繰り出す主人公の生き方がぐっと来ました。一番心に残ったのは、父が責任を取って、切腹をしたときの父へかける言葉で「自分を生んで育ててくれてありがとうございました」と言えなかったことを悔いる場面です。
自分も、主人公と同じように二十歳前に父を病気で亡くしたので、主人公に同調してしまいました。海坂藩(作者創造による架空の藩。庄内藩がモデルとされる)を舞台に、政変に巻きこまれて父を失い、家禄を減らされた少年牧文四郎の成長を描いています。
文四郎は15歳で、市中の剣術道場と学塾に通い、ひとつ年上の小和田逸平や同い年の島崎与之助と仲がよく、また隣家の娘ふくに不思議と心を引かれ、すこしずつ大人になりつつある年頃だったのですが、平凡な日々がおだやかに過ぎてゆくなかで、お世継ぎをめぐる政争が表面化し、これに関与していた養父助左衛門は切腹を命ぜられるのです。
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死に面した父にかける言葉なんて思いつきもしなかったので、主人公と同じ思いになりました。政争の末での、殿の奥方となり子を宿した福を、陰謀を企てる家老の魔の手から救い出すと言う設定もよかったです。
そして、ラストは、藩の別荘に姫になった福に呼び出された文四郎が、会いに行き、昔語りをして懐かしみ心を通わせて終わりと言う心温まる話でした。藤沢周平の良さが出ている傑作だと思います。藩重鎮の権力闘争に人生を翻弄されながらも,一途に愚直に自分の大切な物を守ろうとする姿が感動的です。困難にぶつかった時にいつも身を助けるのは実直に修行に励んできた剣でした。
本作は全編を通して青春の甘酸っぱさが背景を覆っています。描かれているのは青春が終わり大人になっていく主人公の姿ですが、彼がどんな苦境でも少年時代の友情や淡い恋心を忘れずに困難に立ち向かっていく姿には,どうしたって胸を打たれます。
海坂藩の鄙びた田園風景の描写は,魅力です。遠き山に日が落ちていく中城下を歩く様子,汗の吹き出るような暑さの中で主人公が郷方回りをする村々の様子,海にほど近い温泉街の風景,どれも過度に飾り立てることなく淡々とした描かれていますが,その情景ははっきりと目に浮かび,言い知れない感慨を催します。
この作品から得たことは、切々と誠実に生きることの美しさです。誠実をモットーとして生きてきた 私も、この主人公にエネルギーをもらってさらに誠実に生きていきたいと思います。
(50代男性)
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