読書感想文「スクラップ・アンド・ビルド(羽田圭介)」

本書を読んで感じたことは、「今、この本が出版されている」事への衝撃である。「老害」という言葉がある。これは、国の財源を食いつぶす存在として、あるいは社会に迷惑をかける存在として、高齢者を「害」としてみなしている若者が作った言葉である。
 
本書を読むにあたって、この「老害」という言葉を意識せずにはいられなかった。内容の中には一度としてそのような直接的な表現はないし、高齢者をバッシングするような描写もない。しかし、読み進めていくと、やはり「老害」という言葉が思い出されてしまうのである。

 
 
作者の羽田圭介氏は作品の発表当時、29歳。彼の年代は、結婚をしない若者の増加である「晩婚化」や、違法な就労環境を強いられる「ブラック企業」の問題が顕著になった時期である。そのため、そのあたりの描写も自然に内容に織り込まれていると感じた。
 
主人公の健斗は過剰なノルマに耐えきれず、仕事を辞めてしまい、転職活動をしているが、何社も面接に落ち続けている。彼女はいるが、結婚する気はない。金銭的に余裕がなく、将来的にも打開できる希望がないからである。そのために避妊は絶対にする。
 
彼の友人もまた、介護の仕事をしてるため、金銭的な余裕がなく、既婚者でありながら子供を作ることはできないと、自然に感じている。二人が遊ぶのは大体ファミレスか、安い居酒屋である。
 
そんなお金の無い健斗が年金を支払いに行く際、「若者の財産が、年金世代に間接的に搾取されている」という内容の文書が入る。だからといって、自宅介護の祖父に当たることはないし、自分のことを不幸だと嘆くわけでも、生まれた世代を恨むわけでもない。ただ、依然として金はないし就職の目途も立たない。
 
この「直接迷惑だと言えないが、なんとなく食いつぶされている感」が、今の「年金を支える世代」の抱えるリアルな空気感だと感じるし、ひいては、陰で高齢者を「老害」と疎んじる流れに通じるのかな、と思った。
 
高齢化問題はナイーブな側面もある。執筆には勇気も要ったかと思う。しかし、こうした社会問題を正面から捉えた作品が、出版されていく事に意義があると思った。
 
(30代女性)
 
 
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