読書感想文「セックスボランティア(河合香織)」

タイトルだけを見ると勘違いしてしまうかもしれないが、本書は、体験談ではなく、社会制度の不備を嘆く啓蒙書ではない。障害者とセックスとの関わりを描いたノンフィクションだ。はじまりはうぶな方にはショッキングだと思う。

 

69歳の身体障害程度1級で24時間酸素ボンベを手放せない男性が、ソープランドで行為をする2時間の間だけ、命がけでボンベを外す挿話が語られる。彼は言う。「僕らにはタブーが多すぎた。そのタブーをひとつひとつ乗り越え後に続く者に残したい」「セックスボランティア」という言葉の定義ははっきりとは示されていないが、有償・無償の性サービスの提供という事でいいと思う。

 

著者はインターネットで性のボランティアを募集する全介護が必要な男性や、それを受ける女性、聴覚障害を持つがために売春を生業とする女性や、障害者専門デリヘルの経営者などに淡々とインタビューしていく。著者の考察はほとんど開陳されない。著者は余程有能な聞き手なのだと思う。インタビュイーはデリケートな問題を開けっ広げに語っていく。

 

著者が黒子に徹しているからだろうか、私は外出が困難で週に一度の出張ホストとの交流をやすらぎを味わう女性や、結婚するまで親からセックスを禁じられている知的障害者のカップルや、オランダで自治体の補助を受けながら買春をしている男性に同化していくような気がした。

 

 

 

健常者でも障害者でも恋愛や結婚ができない、したくないという方はいる。ただ、口説きたくても声が出せない、触れたくても体が動かない、多くの介助者に囲まれてプライバシーが保てないなど、困難の度合いは障害者の方が高い。世の中は不公平なものだが、工夫次第で解決できる問題を、世の中のムードだけでタブー視するのは余りに可愛そうじゃないかと思う。

 

同情されるのを嫌われる方はいると思うが、私はした。問題は山積だ。普通に考えたらそうなるだろうなというものから、当事者でなくてはわからない繊細な問題もある。特に解決策は示されないが、デリヘルオーナーの男性はこう言う。「そんなことはどうでもいい。障害者が外に出られる方がいいに決まっている」

 

また、終盤に向かってはじめは著者が意図しなかったテーマ、もしかしたら世の中で一番語る意義のあるテーマが展開されていく。「これだよね」という感想だ。フリーランスであり、女性であることによって、本書の取材と出版に関しては多くの困難があったのだろうと予想する。

 

ペンと体、知性と共感と勇気を持って世にあまり知られていない問題に敢然と立ち向かっていく河合香織という作家に出会うことによって、私は静かな闘志が沸くのを感じた。素晴らしい本でした。何か恩返しをしたいくらいです。

 

(30代男性)

 

 

 

 

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河合 香織
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