何年も前、私が英語塾に通っていた時、そこの本好きの先生がプレゼントしてくれたのがこの小説。上中下の3冊で、その分厚さにまず驚いたことを覚えている。自分の経験から、人が推薦したりプレゼントしてくれた本が大抵つまらないと知っていたので、この本を読むのも億劫な気持ちだったが、
とりあえず、と思って最初のページを開いた。「濃い霧は海から匍いあがっていた」との書き出し。不思議だったが、その一文が自分の考えの波長に合ったのだろう。俄然それを目にしただけで興趣が起こり、そのまま読書に没入。決して短くはない上巻を一気に読んでしまった。
それ以後は丁寧に書かれた文章を味わう気になって、焦れる気持ちを抑え、わざとゆっくりと読み進むことに。結局、下巻の最後までたどり着いたのは2週間後。本を閉じた時はホッとため息が出た。ローマ皇帝であるユリアヌスが国教となっていたキリスト教に馴染めず、その事で色々と波瀾が起きるという物語。
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普通ならとても興味が起こらない題材である。それをこれだけ面白く描く作者の辻邦生の筆力にまず感心させられる。そしてとにかくその流麗な文章の凄さ。辻邦生は長年に渡ってトーマス・マンの作品を文の細部に渡るまで研究してきた人なので、その成果がここに現れているのだろう。
こういう純文学というのはとかく文が晦渋で読みにくいものだが、この小説は読みやすさと格調の高さがうまくバランスが取れていて、もし自分で小説を書くのならこういう文章で書きたいと思わせる。
この本のあとも色々と長い小説を読んだが、日本文学に限ってはこれほどの構成力と文章の練度の高さを示す長編小説は稀だということがよく分かる。人によっては日本人が外国人を描くというだけで馬鹿馬鹿しいと感じる向きもあるらしいが、本当にこの小説をちゃんと読んだのか、と聞いてみたいほどだ。
とにかく人から面白い小説はないか、と聞かれたら、この小説を推薦するようにしている。
(50代男性)
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