この本は短編集だ。表題の『バスジャック』も面白いのだが、私個人が特に面白いと感じたのは、『二階扉をつけてください』である。『二階扉をつけてください』はタイトル通り、家の二階にドアを取り付ける主人公の話だ。しかも通常の工務店ではなく、二階扉設置の専門業者が存在する世界。
しかし主人公は二階扉の用途を理解しないまま設置してしまう。そしてそこに帰ってくる主人公の妻と生まれたばかりの彼らの娘。鍵のかかった二階扉。物語の最後には「二階扉に鍵をかけてはいけない」というルールが出てくる。その瞬間二階扉のあたりから激しい音が…。
読み始めた時には、「二階扉とは何ぞや?」と、主人公と同じ心境である。玄関があれば二階にわざわざ扉を付ける必要もないのではなかろうか、と。地上から二階扉に続く階段などは不要だというし、取り付けを請け負う会社の見積りに記された費用の項目はほとんど異なる言葉と金額が並び、主人公と一緒に私も混乱した。
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だがしかし、最後の最後に二階扉の正しい使い方が理解できるのだ。まさに稲妻が身体の中を駆け巡るように。点と点が繋がるように。その瞬間の爽快感はなかなか読書の中で味わえるものではないと思う。後味が悪い話ではあるが、読後感はとても良い。
作者の三崎氏は、世の中に存在しない事物や職業の表現の仕方がとても上手な作家だと私は考えている。『二階扉をつけてください』の他にも『動物園』という短編が収録されているのだが、こちらでは動物を演じるという職業が出てくる。
演じるといっても、パントマイムなどではなく、動物園の檻の中にあたかもその動物がいるかのように自分の中のイメージを表層化し、イメージと自分を一体化させ、観客にもそのイメージを拡散させ見せるという現実では考えられない職業だ。
ありえないと頭の中では分かるのだが、読み進めるうちに、「もしかしたら近い将来できるようになるのかもしれない」と思ってしまうのだ。三崎氏の紡ぐ物語は「ありえない、だが、もしかすると」と読む人の思考の可能性を大きく広げる作風であり、私はそこが大変気に入っている。
(30代女性)
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