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読書感想文「永い言い訳(西川美和)」

西川美和は映画監督としても小説家としても大好きで、全ての作品をチェックしてきた。なので今作への期待も大きかったが、全く裏切られることはなかった。映画を観る前に小説を読んだのだが、映画になったらこんなふうだろうな、と映像が目に浮かんでくるようなシーンがいくつもあった。
 
実際には映画と多少違うので、映像として見ることはなかったシーンもあるが、それでも映像として記憶に残っている。一番印象に残っているのが、主人公が飲みの席から一人離れて庭の池にいるシーンだ。池に吐いたものに鯉が集まってきて食べるという若干グロテスクな描写がある。
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夕食に鯉料理も出たから共喰いだ、という主人公の独白と、はぷ、はぷ、という擬音が強烈で、忘れられなくなった。物語の本筋とはあまり関係のないシーンだが、こういう細かい描写にいちいち説得力があって、それを楽しみに読んでしまうほどだ。
 
女性作家ならではの細やかさだと思う。また実際の西川美和さんが可愛らしい外見だと知っているだけに、描写の冷たさやグロテスクさとのギャップがたまらなくクセになる。それから今回すごいなと思ったのは、主人公の幸夫の口調だ。部分だけ読んだら女性か、そっち系の人に思えるような口調なのだ。
 
しかし幸夫は女好きで愛人もいるような人物である。普段小説、特に純文学を読んでいると、男性キャラでこういう口調はほとんどいない。けれど現実ではいかにもありそうな喋り方だ。ああ、男の人でもこういう喋り方の人っているよなあと、改めて気づかされた感じがした。
 
そしてこういう口調から、皮肉っぽかったりネガテイブだったりという内面も伝わってくる。この小説としては意外なのに、妙にリアルな口調のおかげで、一気に物語に入り込めた。内容としては、配偶者の死という重いテーマを扱っているので、暗い話だったらイヤだなと少し思っていた。
 
けれどクスリと笑えるような箇所もちらほらあったので、重い気持ちにはならずに済んだ。自分の大切な人が突然死んでしまったら、絶望的な気分になって泣いたり塞いだりするだろうと思っていたが、逆にそういう感情を持てずに冷静な自分を発見してしまったら、そのほうがよほど怖いかもしれないと思った。
 
いずれにせよ、死んでしまってからでは全てが遅い、というのを冷酷に突きつけられた気もするので、目の前の相手と思いきりぶつかっておきたいと思った。
 
(20代女性)
 
 
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