読書感想文「お役所の掟―ぶっとび霞が関事情(宮本政於)」

精神分析医の宮本政於氏が、十年余りのアメリカ生活を経て日本に戻り、厚生省に入省した際の体験を赤裸々につづった体験記です。ベストセラーにもなったこの本は英語をはじめドイツ語、フランス語など各国語に翻訳され世界中に大きな反響を巻き起こしました。
 
「お役所仕事」という言葉を聞くと、我々日本人は無駄が多いとか、非効率であるとか、だれも責任を取らないとかいう否定的なイメージばかりが頭に浮かびますが、宮本氏が体験したお役所の実態もまさにこのイメージどおりで驚きました。
 
特に進展もない会議に出席させられ、異を唱えれば「参加することに意義があるのだ」と怒られたり、権利である有給休暇をとろうとすれば上司でもない人の裁可を得なければならなかったり、例を挙げれば枚挙に暇がありません。

 
 
しかしそれより驚いたことが二つあって、一つは宮本氏がこの本に書かれている体験をしていた当時(1980年代の終わりから90年代にかけて)役所ではあまりにもあからさまな男尊女卑がまかり通っていたということです。
 
女性は補助的なポストしか与えられず、当然のようにお茶くみをさせられたり、女性の目につくところに平気でヌードポスターが貼ってあったりと今では考えられないような女性差別がまかり通っていたようです。
 
さらに、「女性は男性より下の地位である」という意味の言葉を堂々と言い放つ役人がいた琴にも驚きました。欧米諸国ならば、役人など社会的に地位のある人間が公の場でこう言った発言をしたら大問題になるでしょう。
 
今よりだいぶ昔の話とはいえ、厚生省の役人という国家を代表する官僚の立場にある人間がこのような時代錯誤の価値観を堂々と振りかざしていたことに驚かされました。もう一つは、アメリカ帰りで何でも堂々と主張することに慣れた宮本氏がその存在を疎まれ、組織ぐるみのいじめにあったということです。
 
といっても宮本氏は誰かに個人攻撃を加えたわけではなく、ただ厚生省という組織の在り方を正直にとらえ、直すべきところや無駄なところを改めた方がいいのではないかと主張しただけですが、これが組織内の大顰蹙を買い、いじめに発展していくのです。
 
「宮本君とは話をするな」といった、小学生のいじめのようなことが官庁で行われていたことにも衝撃を受けましたが、それよりも正当なことを主張しただけなのにその発言の内容の是非を誰も検討せず、ただ目立ったことをしたから、人と違うことをしたからだめなのだと圧力をかけられたことに腹立たしさを覚えました。
 
人と違うことが悪い、という意味不明な価値観に困惑することは、日本に住む人なら誰でも経験したことがあると思いますが、そのいやらしさは日本にいる限り、どこにいても経験することなのだなと暗澹とした気持ちになりました。
 
宮本氏はそれでも高い教育を受けた教養人であり、アメリカで培った論理的思考も手伝って次第に自分を取り戻していきますが、周りが敵だらけの状況にあって自分を貫く潔さは誰にでもまねできるものではないと思いました。
 
それでも、彼のこういう姿勢はぜひとも見習いたいものだと思いました。滅私奉公、集団主義といった日本独特の価値観に違和感を覚える者として、確固とした自分を持ちきちんと教養を積み重ねていくことが、自分の人生を救うのだと思わせてくれた。
 
(30代女性)
 
 
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