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読書感想文「戦いいまだ終らず(落合信彦)」

本書は、日本の「再建王」と呼ばれた実在の人物をモデルとした小説である。実は私はこの本の主人公と一回だけ、偶然にも四国のホテルのロビーで出会ったことがある。同席者にその事を教えられたが、その時の私は彼の事績について全く無知だったので大して気にも留めていなかった。
 
落合信彦氏の著作は貪るように読んだ時期があったが、国際政治を石油ビジネスという生き馬の目を抜く厳しい業界からの視点で語る視点はとても新鮮だった。大仰ともいえる表現がそのまま受け入れられる。その落合氏が選んだ人物だから、面白くないはずがない。
 
本書の冒頭の部分で、前述の光景が走馬灯のように頭の中で展開し始めた。それはさておき。主人公は前の戦争の敗戦によりシベリアへ抑留される。正と死が紙一重の極限の状態にあっても、生来の凄まじいパワーを発揮して主人公はしぶとく生き残ることができ、日本への帰還を果たした。
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彼はまず映画の事業で成功を収めた。ありとあらゆる点で締めつけられた枷が一気に外され、生き残った大衆が食糧の次に求めたもの。それは娯楽だった。その追い風を受けて映画館の経営に成功したが、その成功を妬む者も当然居た。
 
さまざまな妨害や障害に阻まれるものも、生来の怪物的な「明るさ」を武器にしている主人公は決してひるむことは無かった。日本で一本しかない映画のフィルムを盗まれた時のエピソードが凄い。盗品だということが一目瞭然(一本しかないから)だから転売は出来ないよ、という前置きで新聞で犯人に対して買い戻す広告を出したのだ。
 
フィルムは無事戻ってきたのだが、それからその映画は大ヒットしたというのだから痛快だ。しかもそれを計算せずにしたという点からも主人公の人間の大きさが計り知られるだろう。好結果が常について回る。マイナスの要素も工夫と展開次第でプラスにしてしまう。
 
大きな事業を成し遂げた人物に共通することだが、敵をもいつしか自然と味方になってしまっているというは凡人には決して真似のできないことだ。性善説の極意と言えるかもしれない。主人公の下には次々と人が集まってくる。当然事業も膨らむ。
 
映画の次は全くの畑違いの造船業へ進出した。ここで誰しもが考えなかった手法を発揮し、小型船(おもに遠洋漁業)の受注で大きな利益を生んだ。秘訣はただのひとつ。漁師が陸に上がるの正月だけなのを見抜いて、月賦販売(漁師たちのいうところのラムネ)を認めたということなのだが、銀行さえ手を出さなかったリスクの高い(と思われる)事業に進んで乗り出した勇気は素晴らしい。
 
この後も着々と事業は順調に展開し、海運業やホテル、新聞までも傘下に収め「四国の首領(ドン)」と呼ばれるほどの存在となった。日本初の原子力船との関わりで知られた旧日本海軍の造船工廠が前身の名門企業の再建を国から託され、紆余曲折の末に一定の成果を収めることに成功するのだが、そこで本来外様の経営者が生え抜きの社員達をうまく抑えて経営の立て直しに苦悩する有様を痛感した。
 
あれほどの人物でもここまで苦労するのか、と。この主人公については他にも柴田錬三郎氏の『大将』、藤本義一氏の『天井知らず』等でも書かれているが、この2冊よりも落合氏の『戦いいまだ終わらず』が一番読み応えがあった。
 
ここで再び冒頭に戻るが、あの時、素直に主人公の前に進み出て、握手をしてもらうべきだったと悔やまれる。巨人の掌はさぞかし温かったことだろうに。
 
(50代男性)
 
 
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