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読書感想文「想像ラジオ(いとうせいこう)」

想像ラジオをしばらく読み進めていくうちに「これは東北大震災の話だな」とわかってきた。私は北関東に住んでいたから震度6くらいの揺れを自宅にて感じたけれど、幸いなことに内陸だったので津波の被害は免れた。
 
この本の主人公DJアークはどうやら大きな津波に流されて10メートルもある木の上に引っかかっていて身動きが取れずにいて、このままの状態で想像ラジオを発信していた。正直言って最初からの想像ラジオとやらが理解できないまま読み進めていたのでかなり頭が疲れた。
 
だってラジオ局もないしマイクもないし何もなくて想像してるだけなのだから。それでもリスナーはちゃんといて、DJアークとやりとりをしていて、ますます混乱した。1人で勝手に妄想してるのかと思ったけど、聴いてる人がいるのだしテレパシーとか超能力とかそういうものを持ってる人なのかと考えながら読み進めた。
 
DJアークのリスナーたちはどうやら震災で被災した人だけのようで、それぞれが自身がどのように亡くなっていったのかを語るような形で進み、震災から5年経って少し忘れかけていた心に当時の津波の映像がリアルによみがえってきた。
 
たぶん本当の被災者は亡くなる直前にはもがき苦しんで痛い思いをしたと思うし、書いてある表現はかなりソフトになっていると思われる。それに本当の苦しみを書けるのは被災者しかいないので、死んだ人は何も伝えることはできないから生きている人間が想像で書くしかない。
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それでも私は読んでいて胸が苦しくなった。被災者になった気分になったりもした。DJアークとは違う章で別な男性が主人公になって進むストーリーがあり、彼はDJアークの想像ラジオを聴きたいと思っているけど聴けないと悲しんでいて、どういうわけか事故で亡くなった恋人とメールで会話をするという不思議なことをしていた。
 
思うにこれは残された男性の想像で成り立つ会話であり、幽霊の恋人と会話をしているふりをしているのだと思う。彼女だったらきっとこう言うだろうという想像のもと会話を考えているのだと。この男性は生きているから想像ラジオは聴けないのだと思うけど、男性のボランティア仲間はDJアークのラジオを聴いたことがあるという。
 
生きている人でも聴ける人ということはもうすぐ死ぬかもしれないという人と受け取るべきか、この本は本当に解釈が難しい内容で1度読んだだけでは理解できないことがたくさんある。それともDJアークの想像ラジオ自体が誰かの妄想であり、リスナーも含めて全部が想像なのかと思ったりもする。
 
生きている遺族が死んだあとこんなだったらいいなという希望のもとに死者のその後を会話にしてみているのか。私も津波のシーンを何度も見て、気の毒でかわいそうでとそういう気持ちしか出てこないが、この本のリスナーたちのようにみんなで楽しくわいわいラジオを発信したり受信したりしあったりしてるとしたらちょっとよかったなと思える。
 
被災者の遺族などは余計にそう思うと思う。亡くなった家族が苦しみと恨みと心残りで成仏できないとしたらつらいから。DJアークは奥さんと息子には想像ラジオが聴こえないらしいことを不安に思い、それは生きているからだというリスナーのアドバイスに自分が死んでることを悟り、家族は生きていることに安堵し家族の声を想像して成仏していくまでが描かれていた。
 
津波や地震で突然命を奪われた身としては自分が死んだことを自覚するまでの時間や残された人がどうなっているのかということが確認できて初めてあの世に行けると言う状態らしい。この震災のこと、津波にこと、月日と共に風化されないように心に刻みました。時々DJアークのことを思い出すことにしたい。
 
(40代女性)
 
 
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